2019-10-31

ともに助け合える街をつくるために、HITOTOWAが取り組む事業とその背景にある想いとは(後編)

    interviewee:奥河洋介 西郷民紗 津村翔士

    「ともに助け合える街をつくる」をビジョンに掲げ、企業や市民とともに、都市の社会環境問題の解決に取り組んでいるHITOTOWA。このビジョンを実現するために取り組んでいるのが、「ネイバーフッドデザイン」「ソーシャルフットボール」「CSR/CSVコンサルティング」の3つの事業と「Community Crossing Japan」「HITOTOWAこども総研」という2つのプロジェクトです。

    それぞれの事業でどのようなことに取り組んでいるのか、なぜ求められているのか、どのような成果が生まれているのか、関西支社長である奥河 洋介、事業執行役員である西郷 民紗、津村 翔士の3人にインタビュー。

    「ネイバーフッドデザイン」について話を聞いた前編に続き、後編では「ソーシャルフットボール」「CSR/CSVコンサルティング」の2つの事業と、「Community Crossing Japan」「HITOTOWAこども総研」の2つのプロジェクトについて話を聞きます。

    サッカー・フットサルを通じた社会貢献事業「ソーシャルフットボール」

    –HITOTOWAで取り組む「ソーシャルフットボール」事業はどういったものなのでしょう?

    津村:サッカー・フットサルの魅力を活かして「ともに助け合える街をつくる」事業です。たとえば、サッカー防災ワークショップ「ディフェンス・アクション」の企画運営や、Jリーグ社会連携プロジェクト(通称:シャレン!)の事務局などをしています。将来的には、防災減災・子育ての支援・お年寄りの生きがいづくりのためのスポーツ施設「COLO PARK」の設立や「ディフェンス・アクション」のアジア展開を目指しています。

    –「ディフェンス・アクション」では、具体的にどのようなことを行っているのですか?

    津村:「ディフェンス・アクション」は、親子で楽しみながら「共助」を育む防災イベントとして、マンションや地域の防災フェスタなどを中心に広く展開している活動で、首都圏・関西圏を中心に、少なくとも月に1,2回は開催しています。どのような活動でも、基本的に楽しくないと続けられない。楽しんでもらったうえで防災減災に興味を持ってもらうことが大事だなと思ってます。

    「ディフェンス・アクション」で行うコンテンツはいくつもあるのですが、簡単なものをご紹介すると、対面でパスを練習するときに備蓄品の名前を1個言う「パス・ストック」というゲームがあります。言えなかったらパスを出せないというルールにしていて、「どのチームが一番たくさんパス通せたか=どのチームが一番たくさん備蓄品を言えたか」になる。その数を競うのです。

    基本的に参加してくれるのは子ども中心なのですが、親御さんにもゲームに参加してもらうようにしてます。いざやってみると、最初は備蓄品の名前がぜんぜん出てこないのですよ。「水、カップヌードル……以上!」みたいな(笑)。1回練習をしてもらってから、「備蓄品リストを配るから、これ見て覚えようね」と、親子で備品を覚えてもらい、本番をやってみる。そうすると、当然勝負がかかってるので、数のバリエーションもすごく増えて、多いチームだと30個から40個もの備蓄品が言えるようになるんです。

    –防災イベントと聞くと、退屈な催しを想像してしまいますが、「ディフェンス・アクション」はとても楽しそうですね。活動を通して生まれてきた成果はありますか?

    津村:われわれが「ディフェンス・アクション」でメインターゲットとしているのは、実は30代40代の子育て世代なんです。防災って、そうした世代に聞くと「大事ですよね。でもあんまりやってないんです」という答えが大半です。また、地域の防災減災の担い手は固定化し、活動は恒例化しており、取り組まない方はなかなか取り組まない、という状況になっています。

    しかし子育て世代は、子どもから言われたことや、子どもを守るためのアクションをしようという呼びかけは、真剣に受け止めるんですよね。たとえば8月に名古屋で開催した「ディフェンス・アクション」のアンケートで、ある小学生の女の子が「家に帰ったらお母さんに、備蓄品をチェックして!って言いたいと思います」って書いてくれていました。そういうふうに、子どもから言われると、実際の行動に繋がりやすいんです。他にも、「ディフェンス・アクション」に参加したことをきっかけに「災害があったらここで落ち合おう、という家族のルールが決まった」といった声をいただいています。こうした小さい変化をたくさん生み出すことが、実際に災害が起きたときに命を守ることに繋がると思っています。

    –なるほど。やはりそうした「ソーシャルフットボール」の取り組みを始めた背景には、東日本大震災があったのでしょうか?

    津村:そうですね。キングカズこと三浦知良選手がゴールを決めたシーンを覚えている方もいると思いますが、震災が起きた直後の2011年3月29日、「日本代表 vs Jリーグ選抜」というサッカーのチャリティマッチが開催されました。その試合を通して「サッカーには人々に勇気を与え、社会課題を解決する力がある」ということを確信したことが、「ソーシャルフットボール」の事業の背景にあります。

    特に防災減災という領域では、年齢が上がっていけばいくほど意識が高くなるものの、30代40代といった若手世代はあまり意識が高くない、という課題を行政側も持っています。確かに、かつての防災訓練は「真面目に、淡々とやらないといけない」という雰囲気がありました。継続的にやらないと意味がないものにもかかわらず、参加者が「また参加したい」と思えるようなものではなかったんです。

    つまり、本当に届けたい人たちに伝わる防災減災のためのプログラムがなかった。そこに、サッカーの楽しさを掛け合わせることができたら、楽しみながら防災意識を高めることができるんじゃないか。そんなふうに考え、「ディフェンス・アクション」の取り組みを始めました。

    –「ソーシャルフットボール」事業では、「ディフェンス・アクション」以外の活動もしているようですね。

    津村:そうですね。たとえば、Jリーグの社会連携本部の事務局メンバーとして、Jリーグ社会連携プロジェクト(通称:シャレン!)に携わっています。「シャレン」は、「Jリーグをつかおう!」をスローガンに掲げ、Jリーグ・Jクラブと地域が協働で社会問題を解決し、より良い社会の実現を目指すプロジェクトです。


    キャプション:企業、行政、各団体がJクラブと一緒にアイデアを広げ、深めるワークショップ「シャレン!キャンプ」の様子。©︎Jリーグ

    「シャレン」でHITOTOWAが関わっているものの一例として、川崎フロンターレが川崎市幸区の行政と一緒にはじめた「防災かるた」の取り組みがあります。この取り組みでは、川崎市内の防災の取り組みの一環として「防災かるた」を作成。費用を行政が負担して製作した防災かるたは、幸区内の小学校や児童館に配布され、小学校4年生の社会の授業で実施されています。たとえば、「梅が咲く 御幸公園 避難場所」といった、地域の防災情報を入れた札を作り、サッカーにあまり興味がない子どもたちも楽しみながら防災を学べる機会を提供しています。

    この事例以外にも、各地のJクラブがそれぞれの地域貢献活動を行なっています。HITOTOWAはそうした地域貢献活動の好事例を収集し、クラブスタッフに活動内容をインタビュー。その後、他クラブへの情報展開を行なうことで、Jクラブの地域貢献活動のサポートをしています。

    –「ソーシャルフットボール」事業の今後の展望を教えてください。

    津村:「ディフェンス・アクション」については、一つひとつのコンテンツの質を高めながら、より頻繁に行えるようにしていきたいと思っています。小中学校の体育や地域サッカー・フットサルスクールで当たり前に行われるようにしたいですね。そして、自然災害で命を落とす方々が非常に多いアジア諸国に広めていきたいという夢を持っています。

    そして、「シャレン」のようなコンサル型のソーシャルフットボール事業を強化していきたいです。HITOTOWAにはネイバーフッドデザインにて培い続けている、地域に向き合い、地域の課題を解決し、地域を元気にするノウハウがあります。そのノウハウをさらにソーシャルフットボールに転用しながら、サッカー・フットサル・スポーツを通じて地域に共助をつくっていきたいですね。

    「Community Crossing Japan」と「HITOTOWAこども総研」

    –「ネイバーフッドデザイン」「ソーシャルフットボール」以外にも、「CSR/CSVコンサルティング」の事業や「Community Crossing Japan」、「HITOTOWAこども総研」というプロジェクトがありますね。それぞれについて教えていただけますでしょうか。

    奥河:Community Crossing Japan」は、大震災に対するマンションや地域の共助を育むための事業です。自らも自助と共助に貢献できる”よき避難者”を育成する防災減災研修やコンサルティングを展開しています。「ネイバーフッドデザイン」における、より防災減災に特化した取り組みだと考えてもらえたら、わかりやすいかもしれません。

    最近では、マンションでの防災サークルや委員会の立ち上げ、戸建て分譲地での自治会や地域の自主防災組織の立ち上げなど、住民組織の立ち上げサポートと伴走支援も行なっています。

    –確かに、多くの人々が集まる場所でこそ自助と共助が必要になってきそうですね。

    奥河:日本では、いつどこで災害が起こるか分からないし、絶対安全な場所なんてありません。だからこそ、自助や共助を生むような防災対策を日頃から行うことが欠かせないのです。特に東日本大震災以後、自助や共助の防災対策がどれだけできてるのかということは、住む場所を探す方々にとって大きな関心ごとになっています。

    デベロッパーも、これまでは頑丈な建物を建てるというかたちで防災減災に取り組んできました。しかし、そうしたハード面での安心に加えて、住んでいる人同士の防災減災の取り組み、防災訓練・コンテンツといったソフト面での安心を提供することが、今では求められています。そうしたソフト面での防災減災に、HITOTOWAがご一緒させていただいています。

    –具体的にはどんな活動をしているのでしょうか。

    奥河:たとえば、あるデベロッパーの防災減災コンセプトとコンテンツの整備を行いました。これまで行ってきたことの分析から、今後行うべきことの精査と企画、最終的には取り組みのブランディングまで関わらせていただいて。このように多くの住まいや商業施設に影響のあるデベロッパーの取り組みに深く関われるのは、HITOTOWAの仕事の醍醐味だと思います。

    また、より身近な例で言えば、マンションでの防災クイズラリーがあります。マンションに住んでいても、自分の階以外はあまり行ったことなかったり、防災倉庫がどこにあるか知らなかったり、備蓄食料があるということは知っているけれどどこにあるか知らなかったりと、意外とそのマンションについて知らないことは多いのですよね。そこで、住民家族、二世帯がチームになってマンションのいろいろな場所を回りながら、管理組合理事が出すクイズに答える、というイベントを先日開催しました。とても盛り上がりましたよ。


    防災クイズラリーの様子

    よくある防災訓練って、あまり面白いものではないのですよね。なので、いかに楽しく取り組んで、防災を自分ごととして捉えてもらうか、ということを工夫して、ワークショップ形式で取り組んでいるんです。

    –実際にそうした訓練が活きたエピソードはありますか?

    奥河:これは「ネイバーフッドデザイン」の成果でもあるのですが、2018年に台風第21号によって関西が大きな被害を受けた際に、浜甲子園団地も半日停電、一日半断水になったことがありました。そのとき、コミュニティスペースでの活動をきっかけに立ち上がっていたマンション住民のお母さんたち40人のLINEグループが活きました。「あそこの公衆トイレは使えるから、行くといいよ」「あのスーパーには電池売ってたよ」など、災害時に必要な情報がLINEグループで盛んにやり取りされたんです。さらに、「子どもが真っ暗な中で泣き叫んでるから、みんな同じ家に集まって一緒に遊ぼう」という動きも生まれたり。ご近所さんと仲が良いことは、防災減災に役立つということを実感するエピソードでした。

    –「ネイバーフッドデザイン」と「Community Crossing Japan」の取り組みが、相乗効果を生んだ事例ですね。さて、「CSR/CSVコンサルティング」と「HITOTOWAこども総研」は、どういったものなのでしょう?

    西郷:「CSR/CSVコンサルティング」では、社会貢献と事業の両立をしたいのだけど、どうしたらいいのかわからないという企業の相談を受け、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会における責任)とCSV(Creating Shared Value:企業とステークホルダーの共通の価値を創造すること)のコンサルティングを行っています。他の事業は比較的課題や解決策が明確になった段階で行いますが、「CSR/CSVコンサルティング」はより課題設定の段階から、創造的に事業を生み出していくことにご一緒するようなイメージです。

    また、「HITOTOWAこども総研」は、子ども家庭福祉分野に関する調査研究のプロジェクトです。子育て世帯の核家族化や共働きの増加、地域とのつながりの希薄化など、子育て環境が変化するなかで、前向きに子育てができ、子どもが健やかに育つことができるような社会を目指して取り組んでいます。担当するネイバーフッドデザイン事業の中で、子育て世帯の意識調査を実施して、それを事業の実施方針に反映して実践するということも行っています。

    2019年度は、厚生労働省の「子ども・子育て支援推進調査研究事業」(国庫補助事業)に採択され、「養子縁組のあっせんに係る民間あっせん機関と児童相談所との連携や情報共有」をテーマに、民間あっせん機関及び児童相談所に対するアンケート調査を行い、取組事例についてのヒアリングを実施しています。


    HITOTOWAこども総研は研究と実践の好循環を目指している

    –どうして調査研究が必要なのでしょうか?

    西郷:こうした調査研究を通じて、新しい学びを得たり、新たな知見を生み出していくと、実践にも間違いなく活きてきます。すでにある知見から「どういうことが今までわかっていて、どういうことがまだわかっていないのか」を知ることで、実践において問いを持って取り組み、そこでの学びを積み上げていきたいんです。実践と研究を行き来することは、それぞれにとってもいい影響があると考えているので、今後も「HITOTOWAこども総研」での調査研究と、「ネイバーフッドデザイン」の実践に取り組んでいきたいと考えています。

    一人ひとりと向き合うことの先に、よりより地域や社会がある

    –さて最後に、みなさんが考えているHITOTOWAの事業の社会的な意義を教えてください。

    津村:「社会的」という言葉はよく使われますが、私は結局、一人ひとりと向き合うことの積み重ねの先に、社会はあるものだと思っています。その意味では、どの事業にも共通していえるHITOTOWAの事業の意義は、個人に誠実に向き合うことを積み重ねて、社会やそのエリアにとって良い状態をつくるということなのではないでしょうか。

    奥河:そうですね。私も、一人ひとりがご近所とのつながりをつくる取り組みが、より良い社会をつくるためにすごく大事だと考えています。そして、HITOTOWAの役割としては、「徹底的に寄り添う外部者」というポジションだと考えています。つまり、最終的には住民が主体になってコミュニティを運営していくようになるのが理想で、HITOTOWAはその状態になるまで伴走をする、言い換えれば追い風をつくるのが役割なんです。

    西郷:私もふたりの意見に共感していて、さらに広い意味では10年後、20年後に実現したい未来のための事業だと思っています。いま取り組んでいるものの成果が、すぐにわかりやすい形であらわれるわけではないかもしれませんが、今の子どもたちが大きくなった頃、今子育てをしている世代の方がお年寄りになった頃、「ああ、こういうつながりがあって良かったな」と思ってくれればいい。それぞれの事業で取り組んでいることは違えど、「ネイバーフッドデザイン」も「ソーシャルフットボール」も「Community Crossing Japan」も「HITOTOWAこども総研」も、その点では同じです。

    「ともに助け合える街」が、当たり前になる未来へ

    度重なる自然災害や、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」など、都市を取り巻く社会課題はさらに深刻さを増していくことが予想されます。そうしたなかで、HITOTOWAが取り組む「ともに助け合える街をつくる」ための事業は、今回紹介した事例以外にも、多くの地域に広がりつつあります。

    「ともに助け合える街」が、特別なことではなく、当たり前のことになっている。そんな未来も、決して遠い先のことではないのかもしれません。

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    人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

    http://hitotowa.jp/

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