2023-06-01

#31地域拠点が自走するまで──洋光台「まちまど」、走りながら核を創った4年間

横浜市磯子区の洋光台団地を知っていますか? 最近では団地を核とした地域再生の取り組みで、その名を耳にしている方も多いかもしれません。

こんにちは、HITOTOWAの佐藤です。私は2019年から、洋光台団地を拠点に、洋光台エリアの活動や情報を収集・発信する「まちまど」の運営に伴走してきました。

2023年3月には住民の方々を代表理事として一般社団法人化し、住民の方々による自走体制へと移行しつつある、まちまど。HITOTOWAの伴走も、ひと区切りを迎えます。

そんなまちまどでは現在、住民の方々がチームを組み、シェアキッチンを含む食のシェア空間「シェアベース洋光台」のオープン(2023年夏)に向けて準備中!5月からは、クラウドファンディングにも挑戦しています。

その背景にあるのは、約4年間の積み重ねてきた日々。

私もメンバーの想いや覚悟を間近で感じてきた1人として、まちまど誕生から今回の挑戦に至るまでのストーリーを少しでも届けたい!と筆をとりました。

スモールスタートで走り出した「まちまど」

まちまど設立のきっかけは、2012年に始まった「洋光台エリア会議」

これは地域のまちづくり協議会、行政、UR都市機構、地域の団体、有識者が集まって洋光台エリアの価値向上について話し合うべく立ち上がった会議体です。

そのなかで、「地域の情報発信機能があるとよい」との意見が持ち上がり、2019年の5月、洋光台の“まちの窓口”として発足したのが「まちまど」です。

まちまどは、地域にあるレンタルスペースの片隅にテーブルを置き、その席に伊藤さん、青山さんという2人のスタッフさんが座っている状況からの小さなスタートでした。通常は企画段階から伴走させていただくことの多いHITOTOWAですが、洋光台のケースではまちまどが立ち上がったタイミングで、お声がけをいただいたのです。

レンタルスペースの利用者が横にいる状態で、同じ空間にまちまどスタッフがいるという、決してやりやすいとはいえない状況。そもそも具体的に何をするかも、決まっていない……。

まずは伊藤さん青山さん、そして関係者の方々と話し合い、まちの未来像やプロジェクトのゴールを整理し、そのために何をしていくか、考えるところから始めました。

場所でも機能でもなく「人」が拠り所になっていく

スタッフの拠点はできたものの、団地の商店街の2階は、人通りも多くありません。もちろん、認知度もない。待っていても地域とのつながりは生まれそうにない状況でした。

ならばとにかく自分たちが地域に出かけ、顔を覚えてもらおう。伊藤さん、青山さんは地域のお店に挨拶に行ったり、まちづくり協議会が主催する子どもの遊び場に出かけたり、イベントのお手伝いをしたりと、積極的にコミュニケーションを重ねていきました。

「スタッフが拠点に不在のことも多い」ということですが、2人が洋光台のいろいろな場所に出かけ、「今日は○○でイベントのお手伝いをしています!」とSNSで発信することで、場所や機能ではなく2人の存在が「まちまど」になっていったのです。

「2人でできることには限りがある」と考えていたからこそ、「みんなを応援する」「みんなと一緒に何かをやる」ことを大切にしてきました。

他の拠点では、“自分たちの活動”を投稿することが多いSNS投稿も、まちまどでは「地域のいろいろな活動を紹介する」ことを重視。発信をきっかけとして「一緒に何かやろうか」と声をかけてもらえるようなつながりが、少しずつ生まれていったのです。

信頼を積み重ねた先に、仲間がいた

オープンから2年ほど経った、2021年の3月。一人の女性がふらっと、まちまどへやって来てくれました。それがSさん。まちまどの転機となった方のひとりです。

Sさんは洋光台生まれの、洋光台育ち。地域活動には興味があるものの、知り合いの多い地元での活動には不安があり、ずっと隣町で活動をしていたそう。ただ、まちまどの発信を目にするなかで興味が高まり、スタッフとお子さん同士が同級生というご縁にも背中を押され、勇気を出してまちまどを訪れてくれたのでした。

話を聞くとSさんは、「住民自身が運営したり、気軽に出店できるようなイベントが身近にない」と感じていることがわかりました。一方、まちまども、「地域のいろんなプレーヤーと個別に出会ってきたけれど、プレーヤー同士の横のつながりを設ける場はつくれていない」ことに課題感がありました。

そこでSさんとまちまどで「一緒に何かやりましょう!」と始めたのが、「ことはじめ市」です。地域周辺のハンドメイド作家さんに10人ほど出店してもらうコミュニティマルシェで、開催中に出店者さん同士の交流タイムを設けるなど、横のつながりを重視して設計しました。

さらに、「まちのしかけ部おしゃべり会」という企画も。まちまどと個別には知り合っていた方々に声をかけ、みんなで「まちでこんなことあったらおもしろいよね」と話す会を、2、3回と重ねていきました。

そのおしゃべり会をきっかけに、交流を深めていったひとりが、Uさん。

もともと横浜市内のNPOの中間支援組織でキャリアを重ねてこられた男性で、ちょうど退職して会社を立ち上げたというタイミングもあり、「まちで一緒に何かできたらいいね」とよく言葉を交わすように。Uさんのパパ友もおしゃべり会に参加してくれるようになるなど、少しずつ、仲間の輪が広がってきたのが2年前でした。

「食」でつながる、地域の居場所をつくろう!

こうしてまちまどスタッフの伊藤さん、青山さんに、新たにSさん、Uさんという仲間が加わり、活動を広げていくなかで見えてきたのが、シェアキッチンを含む「食をきっかけとしたシェア空間」というアイデアです。

そもそも、既存のまちまどには場所的に余白がないため、「地域の方がふらっと来て滞在できる居場所をつくりたい」という思いはずっと温めていました。また、地域のコーディネート事業ではなかなか収入基盤を築きづらく、活動を続けるためにも財源の核となる別事業を生み出さなくてはと、検討を重ねてきた背景もありました。

そこに仲間が集まり始め、皆で集まって食事を楽しむことが好きなメンバーが多かったこともあり、年齢、国籍、性別などを問わずコミュニケーションが可能な「食」をテーマにした空間づくりについて、本格的に検討しはじめることになったのです。

日々の活動のなかでも、「洋光台に、シェアキッチンがあったら……」と考える理由がいくつもあったことが、メンバーの背中を後押ししていきました。

例えば、まちまどの拠点は商店街にあることもあって、「お店を始めてみたい」と相談に来る方が多かったこと。得意な料理をふるまいたい、料理講座を開きたいと思いがあっても条件面が合わず、1人で踏み出すのは難しい状況があると感じていました。そうした夢を叶えるお手伝いがしたいねと、まちまどでは何度も話していたのです。

さらに、洋光台団地には外国人の方が多いこと。例えばご夫婦でも、1人は日本語も話せて会社のコミュニティがあるけれど、パートナーは日本語ができず、家にこもりきり……といった状況があると耳にしていました。シェアキッチンがあれば、言葉が通じなくても「自国の料理をつくってみんなで食べる」など、食を通じたコミュニケーションがとれるのでは?と、思いもふくらんでいきました。

また、いろいろなシェアキッチンに見学に行くなかで、気づいたことがあります。

それは、シェアキッチンを介した人の流動性です。シェアキッチンの利用者は、単にそのシェアキッチンを使うだけでなく、知り合った方と他のマルシェに出店したり、複数の地域のシェアキッチンを使ったりと、人のつながりが複層的になっていることがわかったのです。まちまども、シェアキッチンを運営することで、地域コーディネートの意味でも、まちの内外に広がりが出てくるかもしれない、と期待が高まりました。

こうして伊藤さん、青山さん、Sさん、Uさん、そして料理教室の講師をしている住民のIさんと、改めてプロジェクトチームを結成。

団地を管理するUR都市機構としても、賑わいや新たな人のつながりの創出に取り組んでいたところで希望が合致し、約1年をかけてシェアキッチンの立ち上げ準備を進めていくことになりました。

メンバー、一人ひとりの覚悟の先に

その間、大きなチャレンジとなったのが、「ヨコハマ市民まち普請事業」への応募です。これは横浜市が地域の魅力を高める提案に支援・助成を行う事業で、一次、二次コンテストを通過すると施設整備の工事費用に対して助成金が出るというもの。

まちまどチームも、2022年7月に一次コンテスト、2023年の1月に二次コンテストを通過! 無事、助成をいただけることになりました。エントリー12組中、3組の選出でした。

……と文章ではさらりと書きましたが、この約1年、チームメンバーそれぞれに覚悟や葛藤、努力の積み重ねがあったことは言うまでもありません。

そもそも、まち普請事業のコンテストは、横浜のニュースなどでもかなり取り上げられるコンテスト。顔や名前も公表されるため、応募に踏み出すこと自体、とても覚悟のいることだったと思います。最終的には皆「やろうよ!」と言ってくれましたが、いま振り返ると「当時は不安だった」と率直な声を聞かせてくれるメンバーもいました。

立ち上げようとしている「シェアベース」には、地域のいろいろな状況をもとに考えた機能が多く含まれています。それは、メンバーが単純に「自分のためにやりたいこと」ではなく、「まちのみんなにとって、あったらいいよね」を軸に考えてきたからです。

そんななか、自分たちがプロジェクトメンバーという看板を背負って大きなコンテストに挑む覚悟を決め、準備に奔走しながらモチベーションを持ち続けることは、決して簡単なことではなかったはず……。

それでも、「なんとか、こういう場所・機会を洋光台につくれないか」「みんなでこの場所をつくっていこう」という思いで、メンバー、一人ひとりが覚悟を決めてくれた。構想を固め、台本を練り、スライド資料をつくり、地域の方々に聞いてもらい、アドバイスを受けて修正し……と試行錯誤を繰り返しながら、結果を出してくださった。

伴走させてもらうなかで、私もみなさんの思いの強さを肌で感じとっていました。

「ひとりでは挑戦しようと思えなかったけれど、このまちで仲間に出会えてチームになったからこそ、一歩踏み出して、コンテストにも応募しようと思えた」。後日、メンバーがそんなふうに話してくれたことが、心に残っています。

2023年の3月には一般社団法人化した、まちまど。

その代表理事にはここに登場してきた伊藤さん、青山さん、Sさんが、そして監事としてはUさんが就任しました。すでに住民の方々が地域の方々の支えも受けながら自分たちの力で走り出している姿を頼もしく、心強く思っています。

シェアベース洋光台、工事費の不足分や備品調達関係など、まだ200万円ほど足りていません。不足資金を補うべく、クラウドファンディングに挑戦中です。

ちょっとでも興味を持っていただけたら、まずはリンクから、その構想をのぞいてみてください。応援もぜひ、お待ちしています!

▼クラウドファンディング、6月30日まで実施中!
「洋光台に 「食」をきっかけとした シェア空間=シェアベースを創りたい」

(HITOTOWA INC. 佐藤まどか)

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人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

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