2024-05-27

ひとり親家庭を支えるために必要なこと〜母子・父子自立支援員のための事例集作成を通じて〜

HITOTOWAこども総研では、こども家庭庁 令和5(2023)年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業において、「ひとり親家庭支援における相談対応事例集の作成(以下、本調査研究)」に取り組みました。
この記事では、ひとり親家庭の現状と、自治体でひとり親家庭の支援を行っている「母子・父子自立支援員」について、本調査研究の内容を交えながらご紹介し、「ひとり親家庭を支えるために必要なこと」について考えていきたいと思います。

 目次 

 

 

ひとり親家庭への支援が必要なわけ

ひとり親世帯の数は、母子世帯で119.5万世帯、父子家庭で14.9万世帯※1。全国の世帯総数の1.0%が母子世帯、0.1%が父子世帯という調査結果※2もあります。

就業の観点からひとり親家庭の実態を見てみると、母子世帯の86.3%、父子世帯の88.1%が就業しており※1、これはOECD加盟国の中で※3相対的に高い割合です。
ところが、内訳を見てみると「正規の職員・従業員」は母子世帯で48.8%、父子世帯で69.9%、「パート・アルバイト等」は母子世帯で38.8%、父子世帯で4.9%となっており、特に母子世帯は非正規雇用が多いのが実情です。

雇用形態の違いは、収入への影響だけでなく、住居の確保が難しくなったり、長時間労働からこどもと過ごす時間が取りづらくなったりするなど、様々な問題も内包しています。
また、離婚による母子世帯の母の養育費の受給率は28.1%にとどまっており※1養育費に関する事前の取り決めや履行確保に向けた取り組みも課題となっています。

このような複合的な困難を抱えながら生活しているひとり親家庭は多く、中には長期的な支援を必要としている家庭もあります。
地域で暮らす私たちはもちろん、自治体やNPOなどの支援者が協力しながら、親子が安心して暮らせるようになることが大切です。
 

ひとり親家庭を支える「母子・父子自立支援員」とは?

ひとり親家庭を支える存在として、全国の自治体に1,788人※4「母子・父子自立支援員」がいます。
ひとり親家庭及び寡婦に対して、生活・就業や、「母子父子寡婦福祉資金※5」の貸付けなど、年間約66万 件※6相談支援を行っています。

私たちは本調査研究の中で、母子・父子自立支援員を対象に、主な支援課題や困難事案に対する相談対応の状況などを把握するため、「ひとり親の相談支援現場に対するアンケート調査(以下、本調査)」を実施しました。
この結果から、どのような相談が多いのか、数値を交えて見てみましょう。
 

4つの調査結果から知る、相談支援の実際

まず、令和5(2023)年12月1日から遡って3年以内の期間に、母子・父子自立支援員が一度でも相談対応を行ったケースについてです。
「相談者本人の主な課題」を見てみると、さまざまな困りごとを抱えたひとり親家庭の姿が浮かび上がってきます。

図表1:相談者本人の主な課題(複数回答)


 
主な課題として最も多かったのは「経済的困窮」で55.9%、続いて「こどもの養育や教育、就職の問題」が36.4%、「病気や障害に伴う困難」が25.1%となっています。
 
また、初回相談時からの相談期間は「半年未満」が約4割となっていますが、「半年以上1年未満」「1年以上2年未満」「2年以上5年未満」もそれぞれ約2割となっており、長期的な関わりが必要なケースも少なくないことがわかります。

図表2:初回相談時から数えた合計の相談期間の内訳


 
次に、母子・父子自立支援員が対応した相談ケースについて、連携・紹介の経験が多い機関を見てみましょう。 

図表3:連携・紹介の経験が多い機関(複数回答)


  
この結果から、多岐にわたる機関との連携が必要なことがわかります。
例えば生活保護の受給や住宅の確保などが必要な場合は同じ自治体の他部署、就労先を探す際にはハローワークなどとの連携が必要です。
こうした機関を、ひとつずつ探したり調整したりするのには、高いハードルがあります。
母子・父子自立支援員が各機関との間に入り、支援のハブとなることが、困りごとの解決には欠かせないのです。
 
最後に、少し視点を変えて、母子・父子自立支援員の経験年数について見てみたいと思います。

図表4:母子・父子自立支援員としての経験年数


 
「1年〜3年未満」と「1年未満」の合計が約4割を占めており、比較的経験の浅い支援員も、最前線で相談にあたっていることがわかります。
また、母子・父子自立支援員は有期雇用の場合も多く※7、支援ノウハウをどう蓄積していくかが課題です。
法律や制度などの専門知識も必要となることから、困難な事案の対応に苦慮している状況もあります。 

そこで私たちは本調査研究で、母子・父子自立支援員のための事例集を作成しました。

具体的な2つの相談事例

ここからは、母子・父子自立支援員が試行錯誤しながら、親子の一歩をあとおしした事例をお話ししたいと思います。
なお、ご紹介するのは、本調査研究で制作した事例集に掲載されているケースで、支援員が対応した複数の相談ケースから作成した架空の事例です。

どのようなプロセスを経て、どのような支援を行ったのか――。2つのケースを見てみましょう。
 
● ケース1
1つ目は、精神的DVを受けた女性に、離婚前の相談支援を行った事例をご紹介します。

夫からモラルハラスメントなどの精神的なDVを受け、離婚したい意思のある30代女性。
離婚後の生活についてだけでなく、本人と子ども2人の安全を確保しながら夫へどう意思表示するか、慰謝料・養育費などをどう協議していくかなどについて、支援員が伴走しました。
支援員は3日に1回のペースで連絡を取り、「優先すべきことは何か」「ゆっくり考えていいことは何か」を一緒に整理したほか、女性の身の安全を確保するために女性の母親に協力を仰ぎ、子どもと実家に身を寄せながら夫に離婚の意思を伝えられるようにサポート。
支援員は必ずしも離婚を勧める立場ではないため、女性の気持ちが揺れる時には寄り添って、本人の気持ちがどこにあるのか面談を重ねて、次の一歩を踏み出す決心を引き出していきました。
生活費と養育費についても、交渉方法や譲るべきところなどを具体的に助言し、最終的には夫との交渉を経て離婚が成立しました。

◆ケースの詳細は、ひとり親家庭支援のための相談対応事例集「No.1 精神的 DV での離婚の相談⽀援を⾏ったケース」をご覧ください。

特に離婚前においては、不安な気持ちを抱えながらも離婚後の生活が想像できず、「思いとどまった方が良いかもしれない」と逡巡する状況が推察されます。
「誰に相談すればいいかわからない」と孤独を感じている方もいるかもしれません。
離婚調停や養育費などについては法律の知識も必要なため、離婚前やできるだけ早期にこうした支援者とつながり、客観的な状況整理や助言のもと、自立に向けて動き出せる体制を整えることが大切です。
 
 
● ケース2
2つ目は、夫の暴力からの保護等を経て母子を支援した事例です。

女性にはこどもが3人おり、夫からのDVと、第1子に対する虐待がありました。
ADHDや知的障害を抱えている第1子の一時保護や夫との別居・離婚手続き、離婚後の家賃の工面などを支援員がサポート。
女性は飲食店でパートの仕事をしていましたが、経済的に困窮している状況だったため、支援員が継続的に相談に応じて生活の基盤を整えていきました。
女性の意向や他の選択肢の検討などを踏まえたうえで、最終的に離婚後の家賃の支払いについては支援員が夫に交渉する形で支援しました。
また、離婚後の環境変化や虐待の影響もあり、第1子に学校での問題行動が見られるようになってからも、学校との間に入って段階的に支援を組み立てていきました。
医療機関の受診のほか、学校やスクールソーシャルワーカーと連携し、学校で問題行動があった時の対応のルールづくりなども行い、第1子自身が障害を受容できるようになることをめざしました。

◆ケースの詳細は、ひとり親家庭支援のための相談対応事例集「No.5 夫の暴⼒からの保護等を経て⺟⼦を⽀援したケース」をご覧ください。

このようにひとり親家庭は、複合的な困難を同時に抱えていることが少なくありません。
複数の機関との調整や支援の役割分担が必要な場合もあります。
1つ1つの困りごとに対して一緒に選択肢を考え、納得した意思決定ができるよう、継続的に伴走することが重要です。
 

ライフステージの変化に寄り添う「第三者」の存在が鍵

今回ご紹介した2ケースはほんの一部に過ぎず、他にも親子交流、こどもの進学・就職、生活困窮などに関わるさまざまなケースがあります。
離婚に迷ったとき、離婚してまず何をすれば良いかわからないとき、頑張っているのにうまくいかないとき——。
ひとり親が直面する困難を乗り越えていけるよう、母子・父子自立支援員が日々相談に対応しています。
 

 
そして、すべてのケースから、ライフステージの変化に伴走したり、定期的に声をかけたりしてくれる第三者の存在の大切さを学ぶことができます。
ただし、それは必ずしも母子・父子自立支援員だけである必要はなく、時には地域コミュニティであり、NPOであり、そして近所の人なのかもしれません。
例えばこども食堂は、地域の人と食事を一緒に摂ることで家事負担を減らすだけでなく、家庭の中に気持ちの余裕や、食事の楽しさを共有する時間を生み出したり、孤立を防いだりする役割も担っています。

こうした多様な社会資源とつながることで、ひとり親家庭に限らず、関わったみんなが暮らしやすい地域になるのではないでしょうか。
 
今後も、多様な家族のあり方に対する理解がひろがるとともに、ひとり親家庭が安心して時間を過ごしたり、相談したりできる場所が一つでも増える未来を願っています。
 
 
 
‐‐‐ 
【ひとり親の相談支援現場に対するアンケート調査 調査概要】
・調査対象:全国の母子・父子自立支援員(1,788名)
・調査方法:全国の自治体を通じて母子・父子自立支援員にWEBアンケートを送付・回収した。
・調査実施期間:令和5(2023)年12月20日〜令和6(2024)年1月26日
・発送数:1,788
・回収数:932
・回収率:52.1%
・有効回答数:928
・有効回答率:51.9%
・調査結果の詳細:ひとり親家庭支援における相談対応事例集の作成 報告書

‐‐‐ 
※1…令和3年度全国ひとり親世帯等調査より(父のいない児童(満20歳未満の子どもであって、未婚のもの)がその母によって養育されている世帯を母子世帯、母のいない児童がその父によって養育されている世帯を父子世帯とする。)
※2…令和4年国民生活基礎調査より(死別・離別・その他の理由(未婚の場合を含む。)で、現に配偶者のいない65歳未満の女(配偶者が長期間生死不明の場合を含む。)と20歳未満のその子(養子を含む。)のみで構成している世帯を母子世帯、死別・離別・その他の理由(同上)で、現に配偶者のいない65歳未満の男(同上)と20歳未満のその子(同上)のみで構成している世帯を父子世帯とする。)
※3…OECD Family Databaseによれば、OECD加盟国のシングルマザーの平均就業率は約71%となっている(2024年5月24日閲覧)。
※4…令和3年度末
※5…20歳未満の児童を扶養しているひとり親、寡婦等に貸し付けられる資金。修学資金や就職支度資金など、さまざまな種類がある。
※6…令和3年度
※7…本調査によれば、会計年度任用職員(パートタイム)と会計年度任用職員(フルタイム)の合計が77%となっている。

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人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

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