2024-07-30
主体性を存分に発揮してもらうには? コミュニケーションの工夫と協力体制─シントシティ3年間の伴走を終えて【社内対談・後編】
interviewee:
2024-07-30
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1,411戸の大規模マンションを中心としたさいたま新都心のプロジェクト「SHINTO CITY(以下、シントシティ)」では、2024年5月19日をもって、HITOTOWAの伴走終了を迎えました。これを機に、担当メンバーである寺田 佳織、浅野 北斗、鳥山 あゆ美の3名で社内対談を行いました。本記事は【後編】です。ぜひ前編とあわせてご覧ください。
▼ 後編では、住民の方々がどんどん走り出したエピソードや、その環境づくりのポイント、及びパートナー団体や管理会社、デベロッパーとの関係性などを話します!
──前編の終わりに、「住民の方々が想定を超えてどんどん走り出してくれた」との話がありました。例えば住民の方々主導では、どんなアクションがあったのでしょう?
鳥山:数え切れないほどありますね。皆さんそれぞれに得意なことがあって、その分野になると基本、どんどん先導してくださいました。例えばITに詳しい方なら、「データの整理はこのシステムを使ってやりましょう」と提案してくれたりとか。
「サークル」という枠組みを立ち上げたときも、私たちは、「自治会でこういう枠組みをつくったので、活用していきましょう」と住民さんに呼びかけるくらいの想定でした。でも役員の方が、「これ、イベントとしてやっちゃいましょうよ!」と提案してくれ、準備も自分たちであっという間に進めて、「サークルをつくるためのイベント」を開催してくださった。私たち、入る隙もなくて(笑)。
結果、今となっては20以上のサークルが活動しています。さらにその一部は「自分たちで楽しむ」だけでなく、サークル主催でイベントを開くなど、「広くマンション住民の方々で楽しもう」という動きも見られている。ここまでの広がりは想定していなかったので、本当に、住民の方々の力で進めていただいたことですね。
役員の方が作成したサークルメンバー募集チラシ。役員の方々が率先してサークル制度を活用し、サークルを立ち上げたこともその後の広がりにつながった。
寺田:前編で、自治会内でイベントの企画を行っていくクラブとして「キカクブ」の話が出ましたが、あれも、もともとは「コミュニティクラブ」という名前で、私たちが自治会立ち上げのときに会則の中でつくったものだったんです。
でもその概念を、住民の方々が「コミュニティクラブってわかりにくいし、なんだか“やってくれる”感が出るから変えよう」と、自分たちが楽しめる、わくわくできる名前として「キカクブ」に改名し、位置づけを整理してくれた。自治会の雛形というか、“前提”部分すらも疑って、よりよい形にしよう、という姿勢がすごい!と感じましたね。
浅野:住民の方々だけでなく、パートナー団体の方々同士が意気投合して、協働プロジェクトが立ち上がり、イベントが行われたこともあります。自然体験を提供するINAKA PROJECTの方と、小中学生向けプログラミング教室SMILE TECHの方が協働して、「新しい学びに触れよう」という主旨のイベントを開催くださったんです。
僕もパートナー団体同士の協働は起きたらいいなと考えていましたが、それが実際に起き、かつパートナーの方々がそれを僕や住民の方々に共有くださったことが、とても嬉しかったですね。
──住民の方々が走り出しやすい風土は、どんなふうにつくってきたのでしょう?
寺田:例えば「こんなことがやってみたい」と相談を受けたとき、「いや、もう3年間のプログラム決まってるから無理ですね」のような受け答えをしていたら、今の状態はなかったと思うんです。
そう考えると、「これをやってみたい」と言い出せたり、それに対して周りが「やるなら当日手伝うよ」と言えたりする雰囲気があるのは、やっぱり1年目から、HITOTOWAが専門家として入っていて、住民の方々の声に「それいいですね」と柔軟に対応してきたことは大きかったのではないかと感じていて。
イベント実施だけでもなく、自治会運営だけでもない、暮らしのコミュニティ全体を考える“ネイバーフッドデザインの専門家”だからこそ、広い視野で、柔軟な判断をしていくことができる。プロとして入る以上、そこは自負をもっていたいなとも思います。
浅野:僕個人としては、2つあると思っていて。1つは、僕ら自身がずっと、チャレンジと失敗をしてきたこと。コロナ禍当初は手探りでオンラインイベントを開催し始めて、時には人がぜんぜん集まらなかったイベントもあった。
2021年、コロナ禍でのオープニングイベントにて、パートナー団体の方と打ち合わせる浅野。前例のない状況のなか、トライ&エラーを重ねてきた。
でもその姿から、単に人が集まる、集まらないだけではない価値を感じとってくれていたと思うし、「HITOTOWAでも失敗するなら、自分たちがやってみてうまくいかなくても別にいいよね」という感覚にもつながっていったんじゃないかなと思うんです。
もう1つは、第三者として、外と内のどちらに寄るわけでもなく、その場にない新しい視点をお伝えするようにしてきたところ。例えば住民の方が「内輪ノリに見られたくない」と話しているときは、「でも皆さん自身が楽しいなら、やってみていいんじゃないですか?」と背中を押してみたり。反対に、「内輪でやろう」となっていたら、「外に開くとこんないいことが起こるかもしれないですね」と言ってみたり。
鳥山:背中を押す感覚、わかる。誰かの意見がいいと思ったら「私もそれがいいと思います」と、言葉にして後押しをすることは、常にやってきたから。
自治会役員とパートナー団体の方々が、並んでイベントの様子を見守る様子。自治会で作製した揃いのハッピを着用。
一方で、私は専門家として入りつつも、住民になりきるというか、当事者の一員という感覚でやっている自分もいたなと思います。例えばイベント実施のときも、仕事としてというより、目の前の人に対して体が動く、住民視点の自分がいたりとか。
言い換えると、“仲間”として受け入れてもらえている感覚は、自治会立ち上げのころからありました。だから私も、自治会役員の方を、役職ではなく「◯◯さん」として、その人が大切にしたいこと、楽しいと思うことを常に考えながら接してきました。
寺田:住民の方々の主体性を大事にする一方で、ときには、関わる方々の気持ちの温度感が折り合わず、進めづらいときもあったよね。そんなときは皆で足並みを揃えるため、丁寧に目線合わせをするようにした。
「これを達成するには、今の自治会の状況から考えると、このくらいの期間がかかると思う」と、第三者の立場として、客観的な視点をもとにゴールの目線合わせをするのも、私たちの大事な役割だったと思います。
浅野:まちづくりに関わる企業や団体では、意見や温度感の相違はよく聞く課題のひとつでもある。シントシティで僕らがやってきたようなコミュニケーションのとり方は、きっと他の地域でも参考になるんじゃないかと思います。
鳥山:コミュニケーションのとり方といえば、ワンデイカレッジのとき、北斗は毎回パートナー団体の方自身の言葉で、「プログラムの意義」や、「ゆるやかにつながる価値」を話してもらっていたよね。確か2回目のイベントくらいからそうで、初期の段階からそれが叶う関係性はすごいなと思ったのだけど、何か工夫はありましたか?
浅野:パートナーの方々にその説明をお願いしていた背景には、僕自身、各団体の活動がすごくいいと思っていて、それを住民の方々にも伝えたい気持ちが前提にあったから。いきなり団体紹介をすると、住民視点では営業的に感じる面もあるかもしれないので、「シントシティキャンパス」という枠組みがあり、そこに参加している、と全体像を話してもらうことで、自然な入り方ができるのではないか、とお伝えしていました。
マルシェイベント中のワンシーン、売る・買うという行為を通じて、住民もパートナーもまちへの想いやリスペクトが伝えあえるような接点づくりを意識してイベントをデザイン。
ただ、僕がその話をしている時点ですでにパートナーの皆さんは、コンセプトに共感して「そうだよね」と納得感を持ってくださっていたんですよね。だから僕としては、その前に関係をつくってきてくれた、てらさんの工夫を聞いてみたい。
寺田:一見、「パートナーとして一緒にイベントを協働してくれませんか?」という話は、そこだけ切り取ると、単発のイベント運営だけの話に捉えられてしまうこともあると思うのが難しいところ。だから関係構築の最初は、ネイバーフッドデザインという、ゆるやかなつながりづくりの一環、という立ち位置が伝わるよう、細心の注意を払ってコミュニケーションをとってきました。
企画段階ではまず皆さんに、地域の一員としてのヒアリング調査という形でお話を伺うところから始めたんです。「どんな活動をやっているんですか」「どんな方が参加されているんですか」とお話を伺うなかで、それぞれの団体の考え方や、共感してくださるかどうか、などの感触をつかんでいって。
2回、3回とお話を伺って、その状況を踏まえて初めて「こんなまちの未来を目指して、こんなプログラムを考えていて、パートナー団体を探しているんです」とお話をしました。ここは特に丁寧に進めたこととして、記憶に残っています。
当時は皆さん、「うちの団体、3年後にあるかわからないけど」って笑いながらおっしゃったりもしていましたが、ここまで一緒に走り続けてくださり、本当にありがたかったなと思います。
浅野:ところで、まだ話に出ていないけれど、今回のプロジェクトが成功した要因として、絶対に欠かせないと思っていることがあって。それが、管理会社の方の存在です。担当のKさんを、僕はすごく尊敬していて。
例えば僕らが「こういうことがやりたい」と提案をするとき、通常、管理会社としては「じゃあまずは理事会に通してもらって……」と“ルール”の説明をすると思うんですね。それは管理という立場を考えると、一般的な対応だと思っています。
ただKさんは、僕らがやろうとしていることや、自治会がやろうとしていることを、「まず受け止める」ことをすごく大切にされていて。「共用部でこんなイベントをやろうと思うんですが」と提案をすると、まず「すごくいいですね!」と受け止めてくれ、かつ「こういうふうにしたら、普段この場所を使っている人も一緒にいられてもっといいかもしれないですね」と、管理会社視点でのアドバイスもくれる。
Kさんを始めとする管理会社のあり方は、このプロジェクトで、HITOTOWAや住民の方々がより提案しやすい環境のひとつとして大きなものだったと思います。「マンションの共用部を使う」観点からすると、「管理のあり方」目線から来るコミュニティ醸成への波及効果は、シントシティの事例を通して改めて実感したことでした。
寺田:私もこのプロジェクトには、クライアントであるデベロッパーの方々の姿勢が、大きく反映されていると感じていましたね。管理会社とのミーティングも2020年ごろから始まって、協力体制の礎を築くところをリードしてくださったのもまさにその1つだったなと思います。
よく外部の方から、「この規模でイベントをやってクレームは来ないんですか?」と質問を受けるけれど、クレームはほとんどない。それはマンション購入前に、コミュニティのあり方や取り組みについて理解くださった方が、購入をしているから。
言い換えれば、販売時からその内容を訴求してくださったり、モデルルームでもしっかりと広報くださったりと、クライアントの方々との協力体制があったからこそ。
その協力体制があるから、私たちもこういった仕組みを安心して提案し、伴走することができる。私たちの提案を受け止めて、「チーム」としてずっと支えてきてくださったデベロッパー、管理会社の方々の存在はとても大きかったなと思います。
オープニングイベント中、マンション内に隠されたキーワードを探す企画の様子。現地で文字パネルを掲げてくださったのも、デベロッパー担当者の方。竣工後の暮らしまで含めて支えてくださった。
──さて最後に、今回対談をした率直な感想や、今後に向けての一言を、それぞれお願いします!
浅野:コロナ禍のスタートで、これだけ大規模なプログラムを企画運営したことは、唯一無二の経験ではないかとひそかな自慢です(笑)。同時に、自分一人のマンパワーの限界に気づかされた意味でも、本当に貴重な経験でした。お話してきたとおり、無事に走り切ることができたのは素敵なパートナーの方々と、スタッフの方々のおかげです。3年間をともにつくってきてくれた方々に、心から敬意を表したいです。
鳥山:企画時は入念に設計して仕組みや関係性づくりを進めつつ、伴走時は柔軟に、住民の方々に仕組みを変えていってもらう。矛盾するようですが、私たちからみれば住民の方々のカラーに変わっていくことは何より嬉しいことであり、その矛盾を大いに楽しめた3年間だったと改めて感じました。
自分自身が楽しい、心地よい感覚を大切にすることは、目の前の住民の方々を大切にすることにもつながります。私自身がその意識を持ち続けるとともに、これから新しく関わる方々にも伝えていきたいですね。
寺田:私も振り返って思うのは、自分たちはこの3年間、常にわくわくした気持ちを持ち続けながら取り組んでこられたということ。それは伴走者として“一歩引いて支える”のではなく、住民の方々の横に並び、“一緒にチャレンジをして、走り続けてきた”からだと思います。伴走のなかでいただいた数多くの学びを、今後はほかの地域の自治会の方々とも共有し、学び合いの機会をつくっていけたら嬉しいです。
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前・後編にわたる社内対談、最後までご覧いただきありがとうございました!
“自治会”や地域のリソースという既存の枠組みを最大限に活かした新たな自治運営のあり方、そのなかでのコミュニケーションのあり方などが、ほかの地域で活動する方々にとっても参考になれば嬉しく思います。
そして「新たな自治運営のあり方」「目線のすり合わせ」「持続可能な仕組みづくり」などのお困りごとがあれば、ぜひ私たちHITOTOWAへご相談ください。
2024年からは新規事業「ひととわ不動産」も本格始動し、より広い視野でネイバーフッドデザインに挑み始めているHITOTOWA。これからも、誰もが安心して楽しく暮らせるまちを目指して、人とまちに向き合い続けます。
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