2023-08-25

#32 養子縁組“当事者の声” を届けるために──
養子・養親アンケート調査報告会を終えて

ネイバーフッドデザイン事業でご注目いただくことの多いHITOTOWAですが、専門的な調査研究事業を行う「HITOTOWAこども総研」もまた、「安心して暮らせるまちをつくる」理念をともにする、私たちの大切な事業のひとつです。

2022年10月〜12月、HITOTOWAこども総研では、「養子縁組の支援に関する養子・養親アンケート調査」を実施しました。厚生労働省補助事業として、複数団体協力のもと、養子縁組当事者に対するアンケート調査を行ったのはこれが初めてです。

この調査を経て私たちは、2023年6月16日に「養子縁組の支援に関する養子・養親アンケート調査 報告会」を開催しました。

はじめまして、HITOTOWAの佐藤祥子です。

私は中学生のときに不登校を経験したのですが、当時、家庭の枠組みを超えて第三者の支援を受けられたことが、その後の歩みにつながったと感じています。この経験から、地域における子育てや多様な家族のあり方をサポートしたいと思い、HITOTOWAでは主にこども総研で調査研究事業に携わっています。

さて今回の報告会は、先のアンケート調査に回答してくださった47名の養子さん・養親さん、協力団体の皆さんに、調査結果を直接お伝えしたいという思いから始まりました。

養子縁組家庭はいま、どのような支援を必要としているのでしょうか。本記事では報告会を振り返りながら、調査結果のエッセンスと今後の取り組みをお話ししたいと思います。

なお、本調査は令和4年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「特別養子縁組推進のための環境整備に関する調査研究」において実施したものです。調査結果の詳細は、こちらをご覧ください。

養子・養親の“当事者視点”から、必要な支援を検討するために

さまざまな事情により、⼦どもが、⽣まれた家庭とは別の家庭で法的な親⼦関係を結んで育つことができる「特別養⼦縁組制度」。永続的かつ安定した養育環境を保障するための選択肢として、積極的な活⽤が期待されています。

⼀⽅で、日本では養⼦縁組の成⽴後における養⼦・養親への⽀援は⼗分ではありません。⾃治体への⾥親登録の有無や、転居の有無などによっても、⽀援が途切れてしまうことが課題となっています。

例えば児童養護施設で育つ場合とは異なり、養子縁組家庭の場合は同じ境遇の子どもと出会える機会が少なく、学校の友達には話しづらいといった状況もあると考えられます。支援機関などが養子同士の交流機会をつくることも、支援のひとつとして重要です。

このように、養子・養親の方々が感じていることや必要としていること、それに対する望ましい支援について、当事者である養子・養親の視点で検討できるよう、今回のアンケート調査を実施しました。

図表1:報告会の流れ

報告会では、養子さん・養親さんや協力団体のほか、児童相談所、民間あっせん機関、弁護士や研究者など、40名近くの参加がありました。アンケート調査結果の報告に加えて、有識者の専門的な見地からのコメントや、協力団体の方々からの感想もお話いただきました。

ここからは当日お話しした調査結果より、大きく6点を抜粋してご紹介していきます。

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<調査結果抜粋 目次>
■養子縁組成立後の支援ニーズを知る、3つの調査結果
① 養子縁組の成立から半年以降に、仲介機関に相談したいと思った経験があるのは養子で約3割、養親では約半数
② 成立後に何らかの支援が重要だとする養子・養親は全年代で概ね7割を超える
③ 養子縁組の成立後、重要だと思う支援は、年代ごとに変化する

■養子の「出自」や「ルーツ探し」にまつわる、3つの調査結果
① 出自に関する情報を得ようと思った経験がある養子は7割を超える
② 実方の父母に関して必要だと思う記録は、「氏名」「生年月日」のほか、「健康状態・既往歴」や「子ども・養親から実方の父母への連絡の可否に係る希望」などが双方で上位
③「情報を探したり、問い合わせたりする際のサポート」が必要だとする養子・養親が半数以上

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それぞれ、数値を交えて以下に詳しくみていきましょう。

養子縁組成立後の支援ニーズを知る、3つの調査結果

まずは、養子縁組成立後の支援ニーズに関する3つの調査結果です。

① 養子縁組の成立から半年以降に、仲介機関に相談したいと思った経験があるのは養子で約3割、養親では約半数

図表2:養子縁組の成立から半年以降に、
仲介機関に相談したいと思った経験及び相談したいと思った具体的な内容

この結果より、成立から半年以降も支援のニーズがあることがわかります。

そもそも支援が受けられることを知らない場合はニーズが顕在化していない可能性もあるため、養子・養親に対して、支援の存在やその内容を周知していく必要があると考えられます。相談したいと思った具体的な内容の自由記述では、生みの親や出自に関するものも複数ありました。


② 成立後に何らかの支援が重要だとする養子・養親は全年代で概ね7割を超える

図表3:養子縁組の成立後に重要だと思う支援の有無

この結果より、成立後の継続的な支援ニーズを読みとることができます。

特に、今回の調査では養子縁組の成立時点に住んでいた地域から転居を経験した養親が6割を超え、そのうち他の都道府県に転居した方も約3割いました。養子縁組家庭の居住地域が変わっても、適切な機関に支援が引き継がれることが必要だといえます。


③ 養子縁組の成立後、重要だと思う支援は、年代ごとに変化する

3つめは、養子縁組の成立後、養子の年代ごとに重要だと思う支援に関する調査結果です。まずは養子の回答から見てみましょう。

図表4:養子縁組の成立後、年代ごとに重要だと思う支援(養子、複数回答)

中学生以上の年代で「養子同士の交流」や「養父母との関係に関すること」の割合が増加しており、思春期以降の年代で支援が重要とされていることがわかります。

また、「出自やルーツ探しに関すること」、「生い立ちの整理」は中学生以上の年代で約半数が重要と回答しており、「実方の父母等との交流」は、高校生等の年代でニーズがより高い傾向にあります。これらの結果より、ニーズが高まる前の小学生などの年代から、継続的に生い立ちの整理などの支援を行うことが大切だと考えられます。

一方、養親の回答では、「出自やルーツ探しに関すること」や「生い立ちの整理」は中学生の年代でニーズがより高く、「実方の父母等との交流」については就学前の年代でニーズがより高い傾向がありました。

図表5:養子縁組の成立後、年代ごとに重要だと思う支援(養親、複数回答)

養子・養親で支援が必要だと思うタイミングは異なることから、双方に適した時期に支援が提供されることが望ましいと考えられます。なお、「養子同士の交流」は、全ての年代で概ね半数以上が重要と回答しており、こちらも継続的な支援が求められています。

そして養子・養親の調査結果に共通して言えることは、「重要だと思う支援」は養子の年代によって変化するため、成長段階に応じた支援が必要だということです。

養子の「出自」や「ルーツ探し」にまつわる、3つの調査結果

次に、養子の「出自」や「ルーツ探し」に関わるテーマで、重要な3つの調査結果を見ていきたいと思います。

① 出自に関する情報を得ようと思った経験がある養子は7割を超える

図表6:出自に関する情報を得ようと思った経験・実際に試みた経験

出自に関する情報を得ようと思った経験がある養子は7割を超えており、そのうち実際に試みた経験がある方は約4割となっています。また養親では、情報を得ようと思った経験がある方は4割に満たないものの、そのうち9割の方が実際に試みた経験があるとしています。

では、養子・養親にとって、どのような情報が必要なのでしょうか。


② 実方の父母に関して必要だと思う記録は、「氏名」「生年月日」のほか、「健康状態・既往歴」や「子ども・養親から実方の父母への連絡の可否に係る希望」などが双方で上位

養子の実方の父母に関して必要だと思う記録についての調査結果です。

図表7:実方の父母に関して必要だと思う記録(複数回答)

必要だと思う記録は養子・養親でばらつきが見られましたが、「氏名」「生年月日」のほか、「健康状態・既往歴」や「子ども・養親から実方の父母への連絡の可否に係る希望」などが双方で上位となっており、支援機関が確実に記録を残していくことが望まれます。


③ 「情報を探したり、問い合わせたりする際のサポート」が必要だとする養子・養親が半数以上

図表8:出自に関する情報へのアクセスについて、今後必要だと思う支援(複数回答)

出自に関する情報へのアクセスについて、今後必要だと思う支援に関する調査結果では、「情報を探したり、問い合わせたりする際のサポート」が必要だとする養子・養親が半数を超えています。

また、「問い合わせ前後のカウンセリング」、「実方の父母との交流のサポート」も養子の半数以上が必要だと回答しています。

現状は、情報へのアクセスを試みたものの、さまざまな事情からアクセスが難しくなってしまった方などもいると考えられることから、こうした包括的な支援が進むことで、アクセスできる人が増える可能性があります。

さらに、情報へのアクセスや実方の父母との交流をどのように行うかは、養子の年齢や家庭の状況などに応じて子どもの立場で判断されるべきであり、情報と接したときの心の揺れに対するケアなども含めて、サポートが必要だと考えられます。

養子縁組家庭の“声”が、今後の支援の検討に活かされることを願って

①継続的な支援体制づくりのために
ご紹介した調査結果では、養子縁組成立後の継続的な支援ニーズがあること、そして養子の年齢によってニーズは変化することが明らかとなりました。支援機関では、地域で暮らす養子縁組家庭に必要な支援を提供できる体制づくりが求められます。

また、子どもの出自を知る権利を保障するためにも、支援機関が養子縁組に関する記録を可能な限り残し、保管するとともに、得たい情報の整理やアクセス前後のカウンセリングなども含めたアクセス支援を行っていくことが重要だといえるでしょう。

なお今回の調査は、養子縁組の当事者(養子・養親・生みの親)のうち、養子・養親への調査に限られていたこと、またN値や回答率、回答者属性などを考慮した場合に全国的な状況を捉えているものではないことに留意が必要です。

その意味でも、今後は、養子・養親や生みの親の方々の声が支援施策に反映されるよう、全国を対象とした調査が必要だと考えています。私たちとしても、引き続き、あるべき支援について当事者の皆さんや、支援者の皆さんと考える機会をつくっていきたいです。

今回の報告会では、協力団体の方々から、「養子の年代による支援ニーズの変化を知ることができた。こうした実態を関係者に知ってもらうことでより良い支援ができるのではないか」、「養育の過程でさまざまな困難にぶつかったとき、当事者同士の交流が力になった。愛情によってつながるという養子縁組の趣旨を社会に広げるうえで、今回の調査が重要な役割を果たしうるのではないか」などの感想をいただきました。

養子縁組家庭が、当事者同士で交流する機会を得られない場合には、地域で孤立してしまうことも考えられます。ピアサポートに取り組む当事者団体の活動が継続できるよう、自治体による、資金面の支援や情報発信の強化も望まれます。

②社会的な理解をひろげるために
支援の拡充が必要な現状はある一方で、ご紹介した調査結果の自由記述では、養子・養親の方々から、「養子縁組家庭で育って良かった点や、子どもを育てて良かったと感じる点」についても、さまざまな声が寄せられました。

図表9:養子縁組家庭で育って/子どもを育てて良かったと感じる点

もちろん困難を感じた点についても、さまざまなご意見をいただいています。特に生い立ちや学校生活、健康状態・既往歴、思春期における養育などについては複数の声が寄せられ、社会的な理解促進や支援の拡充が必要であることを実感しました。

図表10:養子縁組家庭で育って/子どもを育てて困難を感じた点

特別養子縁組は、年間約700件(※1)が成立しています。そうしたなかで、今後も制度の利用促進や支援の充実を図っていくためには、支援に関わる人や組織だけでなく、広く社会に対して、こうした当事者の“声”を、喜びや課題の両面を含めて発信していくことが重要だと考えています。

以前、養子縁組家庭の方から、「特別養子縁組という制度が、“特別”ではない社会になってほしい」というお話をお聞きしました。

養子縁組家庭にかぎらず、家庭には多様なあり方があります。

自分の暮らしや価値観を当たり前だと思わず、相手の話に耳を傾けること。「家庭には多様なあり方があるのだ」という認識を、持っておくこと。

調査研究事業のみならず、ネイバーフッドデザイン事業、ソーシャルフットボール事業などを通して多くの地域や家庭と関わるHITOTOWAとしても、そうした見識をお届けしていくことは使命のひとつだと思っています。

その先に、安心して暮らせるまちがあると信じて。

※1:司法統計によれば、令和3年で683件、令和2年で693件、令和元年で711件となっている

(HITOTOWA INC. 佐藤祥子)

【養子縁組の支援に関する養子・養親アンケート 調査概要】

調査名:養子縁組の支援に関する養子・養親アンケート調査
調査対象:18 歳以上の養子及び 18 歳以上の子ども(養子)がいる養親
調査方法:首都圏で活動を行う、養子縁組当事者団体及び平成 16 年以前(18 年以上前)にあっせん事業を開始した民間あっせん機関の合計5団体を通じて、対象者にWEBアンケートへの回答を依頼した。
調査実施期間:令和4年10月21日〜令和4年12月5日
配布数:養子(178)、養親(134)
回答数:養子(19)、養親(28)
回答率:養子(10.7%)、養親(20.9%)
調査協力団体:特別養子縁組家庭支援団体「Origin」/特別養子縁組グミの会/絆の会/環の会/日本国際社会事業団(ISSJ)
調査結果の詳細(URL):https://hitotowa.jp/information/post-13729/(特別養子縁組推進のための環境整備に関する調査研究 報告書)

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人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

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