2024-04-19

#34 商店街だからこそ!できる、フェーズフリーな防災まちづくり。「まちなか防災訓練」3️年目の変化とこれから(戸越銀座商店街)


2024年2月、戸越銀座商店街で続けてきた防災まちづくりの取り組みが、消防庁の「防災まちづくり大賞」にて消防庁長官賞を受賞しました!

向かって右からパナソニック ホームズ株式会社の北條さん、阿部さん、戸越銀座商店街連合会会長の山村さん、HITOTOWA鳥山。

おひさしぶりです、HITOTOWAの鳥山です。「戸越銀座商店街の防災街まちづくりフェア」の記事をお届けしてから、早いもので1年半が経ちました。

その間、戸越銀座商店街では定期的に「まちなか防災訓練」と「まちなか防災サッカー&避難所体験」を実施。取り組み3年目となった2023年は、住民さんや商店街の方々に、多くの前向きな変化を実感することができた1年でした

結果として冒頭の受賞にもつながったこと、とても光栄に感じています。

そこで今回は、この1年半に戸越銀座で起きたいろいろな変化やその理由をご紹介し、そこから描く4年目の構想についてもお話ししてみたいと思います。

住民の方々の、防災意識の高まりを実感!

私たちが商店街やパナソニックホームズの皆さんと一緒に、戸越銀座商店街の防災まちづくりに関わり始めたのは、2021年のことです(背景は前回の記事をご覧ください)。

約3年間の取り組みを重ねて、今、もっとも変化を実感していること。

それは、住民さんや商店街の皆さんの、「防災」や「戸越銀座の防災まちづくり」に対する意識の高まりです。

まずは、住民さんの変化から。

たとえば「まちなか防災訓練」で毎回開催している防災クイズラリーでは、以前はクイズの正誤について特に触れず、参加賞をもらって帰るだけの方も多いなど、防災知識を持ち帰ってもらえているのか不安がありました。

しかし2023年は、より正しい答えが知りたくなるような質問をしたり、答えの紙に解説を入れたりなどの工夫もあってか、解説を読んで「あー!Aか、そっか〜!」などと反応してくれる方が増え、正しい知識を持ち帰ってもらえた実感があったんです。スタッフからも「お客さんの反応が去年とは全然違った!」と驚きの声をたくさんもらいました。

また2023年5月の「まちなか防災訓練」では、参加した方々にアンケートを実施。

その結果、戸越銀座商店街の周辺にお住まいの方々の防災意識や取り組み状況は、他のエリアからの参加者に比べると「参加前から高い」こと、かつ「参加後はさらに高まる」結果が得られ、取り組みを継続してきた効果を読みとることができました。

商店の店主さん自ら、店頭でローリングストックの周知も

住民さんだけでなく、商店街の皆さんの変化も大いに感じています。

以前はポスター掲示のご協力が多かった各商店ですが、2023年9月の「まちなか防災訓練」では、定休日にもかかわらずお店を開け、店頭で備蓄品の周知までしてくださったお店がありました。

背景には、店主さんが私たちと話すなかで、「自分の店にも賞味期限が長めのお豆腐やレトルト食品など、備蓄に使える商品がある」と知ったことも関係していたそう。店主さん自らローリングストック(日常生活で消費しながら、都度買い足して備蓄すること)について広めようとしてくださったこと、嬉しかったです。

それ以外にも、SNSで広報をしてくださったり、店頭で防災関連商品を展開してくださったりするお店の方々が増えています。

また先日、商店街の皆さんと2024年度の防災まちづくりの会議を行ったときのこと。

前年までは主に私たちが取り組みを提案し、賛同をいただく形だったのが、その会議では商店街の方からも具体的な問いや提案が出てくるようになっていました。

たとえばある方からは、「AEDの使い方はみなさん積極的に学んでくれているね。でも、そもそもどこにAEDが設置されてるのか知らないのでは?」という意見が。さらにその投げかけに対して商店街の皆さんが「何個あるんだろう」「AEDマップなどもできるといいね」とどんどん意見交換されていて、とても心強く感じました。

行政との信頼関係も高まり、できることが広がっていく

3年目の変化としてもうひとつご紹介したいのは、行政からの相談が増え、その相談内容が深まってきたことです。

たとえば、昨年11月に戸越小学校で開催した「まちなか防災サッカー&避難所体験」。

きっかけは、商店街から「小学校のグラウンドを使って防災サッカーをするなら、実際に避難所になる体育館で避難所体験も実施したらいいのでは?」との発案をもらい、私が品川区に避難所用テントの貸出についてご相談したことでした。

するとその後に区から改めて電話があり、「区としても避難所訓練をやりたいと考えていたので、ぜひイベントに協力したい」「防災用品の展示などもさせてもらえないか」とご提案をいただいたんです。

結果、避難所体験は区と連携の取り組みという位置づけで進めることに。

「耐震対策や家具転倒防止、備蓄など、在宅避難の準備をしよう」などイベントで発信する内容の監修や備品・情報提供にご協力をいただく一方で、運営については私たちを信頼して任せてくれました。

避難所体験のひとコマ。実際に体育館の床に用意されたアルミシートの上に寝転んだ子どもたちからは「床がかたい!」、テントを見た大人からは「衛生面のケアが大変そう」などの声も。品川区からは防災課の方に加え、耐震化推進担当の方にもお越しいただいた。

HITOTOWAでは戸越商店街のプロジェクト以外でも、区内で複数の取り組みを行ってきた背景があります。積み重ねてきた信頼関係が、今回の柔軟なコラボレーションにつながったのだとすれば、とても光栄に思います。今後も私たちならではの立ち位置を生かし、各所と連携をとりながら防災まちづくりを進めていきたいです。

ちなみに「避難所体験」では備蓄食をおいしそうに食べている子どもたちの姿が目立った一方で、「子どもが備蓄食を初めて食べたが苦手だったので、食べられるものを一緒に探したいと思った」という声も。その声をもらうまで私もそうした状況を想像できていなかったので、改めてこのイベントをやってよかったな、と思いました。

「あ、楽しそう」でふらっと参加。フェーズフリーな防災訓練

さてここまで、この1年半に実感したさまざまな変化をお話ししてきました。

こうした前向きな変化を、順調にもたらすことができている理由は何か?

背景はいろいろとありますが、一番大きかったのは第1回目のまちなか防災訓練の後、改めて商店街やパナソニックホームズの皆さんと話し合い、「まちなか防災訓練」が大切にする2つの「軸」を再定義したことではないかと思っています。

1つめの軸は、「フェーズフリー」。

フェーズフリーとは、日常生活と災害というフェーズ(局面)の境を取りはらい、どちらの局面でも役立つ物やサービス、仕組みをつくろうとする考え方です。

「わざわざ防災訓練に行く」ではなく、「たまたま訪れた場所に防災訓練がある」ようにすれば、より多くの人に防災体験をしてもらえるのではないか。日常的に足を運ぶ商店街で行う「まちなか防災訓練」の意義がまさにここにある、と皆で確認しました。

2つめの軸は、「防災を楽しく、体験型で学ぶ」こと。

まちなか防災訓練への参加理由を聞いたアンケート(複数回答可)では、1位が「楽しそうだったから」で88.7%、2位が「子どもに防災を学ばせたいから」で59.3%でした。

ふらっと訪れた方に参加してもらうにあたっても、「楽しそう」「子どもが喜びそう」はまず興味を持って参加してもらう、大きな要素です。

商店街という場を活かすには、セミナーのような一方通行の啓発ではなく、子どもから大人まで自然とやってみたくなるような「楽しく&体験」できる企画を提供したい。これも運営チーム一同、しっかりと目線合わせができています。

まちなか防災訓練では、水消火器や放水体験を複数の場所で体験できるプログラムも。戸越銀座は火災リスクが高い地域特性から、消火訓練は特に大切にしている。

HITOTOWAとしては防災サッカー体験ブースをこれまで設けてきたが、2023年からはそのホッケー版も用意。品川区がホッケーの普及を推進していること、また大学時代ホッケー部に所属していた鳥山自身の思いもあり、ホッケー×防災の双方を広める機会を創出した。

これらイベント全体の「軸」は、初めて出展する企業にも、事前にしっかりと時間をかけたコミュニケーションをとり、お話しするようにしています。

なかには「初めての出展で、体験型の企画をするのは難しいかも……」という企業も。その場合、最初はトライアルとして展示型で参加してもらうこともあります。「長期的な目線合わせができれば、徐々にブラッシュアップでOK!」も、運営一同の考え方です。

どうしても展示以外の対応が難しい企業もありますが、内容的にぜひブースを出してほしいと判断したものについては、「クイズラリーのスポットにする」「関連ブースと隣合わせにする」など事務局側でフォローを行うようにしています。

幸いイベント当日を経験すると、「ぜひ次回も参加したい」と言ってくださる企業が多いです。前回初出展した方からは「今回隣だった企業さんと、次回はコラボしてみたい」との声もいただきました。出展側も「体験」することで “自分ごと”となり、次回はこうしよう!とアイデアが浮かんでくる様子を嬉しく感じています。

商店街で防災訓練をやる意義は、フェーズフリーで「ふらっと訪れても参加できる」こと。「楽しそう」をきっかけに「体験」して、気づきを得られること。

これら2つの「軸」を運営メンバーで共有できているからこそ、この3年間で「まちなか防災訓練」は“商店街だからこそ”できる防災訓練として着実にブラッシュアップされ、対外的にも数々の変化を生んでくることができたのではないでしょうか。

そして目指す姿が共有できているから、私たちも短期的には「できていない」ことを長期的には通過点と捉え、柔軟に対応していくことができる。私自身、この3年間でとても勉強になったことでした。

「広める」から「深める」へ

2024年4月からは、4年目の取り組みがスタートします。

1️〜3年目は、防災まちづくりを「広める」に主軸を置いてきました。おかげでイベントに“参加”する方は、3年間でとても増えました。ともに防災まちづくりを進めてきたパートナー、パナソニックホームズでは昨年複数の成約があり、エリア価値向上の成果も感じられています。

4年目以降は、「広める」活動も続けつつ、並行して住民の皆さんとの関係性を「深める」活動を始め、取り組みが長期的に持続していく環境をつくっていきたいです。

まず「広める」活動では、「まちなか防災訓練」や「防災サッカー」の継続に加え、より実践的なスキルを学べる「防災キャンプ」など、新しい取り組みも構想中。

「深める」活動としては、住民さんとつくるワークショップなど、この地域に愛着を持つ方々と少人数で対話する機会をつくっていきます。

これまで出会った「戸越銀座好き」な住民さんや、防災サッカーの常連さんをはじめ、今後も「戸越銀座でこんなこと、やってみたい」という住民さんたちと出会い、一緒に企画をつくっていけたら。そんなイメージを膨らませてわくわくしています。

2024年3月9日に開催された品川区主催の「品川区防災フェア」では、戸越銀座の防災サッカーに以前参加してくれた親子2組の方がサポートスタッフとして活躍。2024年度の取り組みに向け、よいスタートが切れそうな予感。

「広める」から、「深める」へ。

またひとつ進化した2024年度の取り組みが、戸越銀座商店街にどんな風を吹かせてくれるのか、私もとても楽しみです。

(HITOTOWA INC. 鳥山あゆ美)

※「まちなか防災訓練」や「まちなか防災サッカー」などの詳しい当日レポートは、こちらのページ一覧に随時アップしています。

キーワード
HITOTOWA

HITOTOWA

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

HITOTOWA

この記事を読んだ方におすすめの記事

Interview

HITOTOWAの声

Interview一覧へ