2024-12-16

【こども総研コラムvol.1】「公的ケアからの養子縁組」を読む−子どもが出自を知る権利

2024年11月に『公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える』が明石書店より出版されました。本コラムでは、特別養子縁組や社会的養育、こども支援に関心のある方々に向けて、同書の一部をご紹介しながら、日本の現状にも少し触れたいと思います。

近年、生殖補助医療や内密出産、特別養子縁組など、さまざまな領域で「出自を知る権利」についての議論が行われています。出自を知る権利は、日本も批准している子どもの権利条約で「父母を知る権利」として明記されているものです。

同書では、各国の国内法における養子が情報にアクセスする権利が認められる年齢や養子縁組について子どもに伝える(いわゆる「真実告知」の)義務、出生証明書に掲載されている情報などについて一覧で紹介されています。

下表は、各国における養子が情報にアクセスする権利が認められる年齢について、一部を抜粋したものです(240〜242頁)。

上記の通り、情報にアクセスできるのは成人年齢に達してからとする国もありますが、未成年にもアクセスを認めている国もあります(詳細は同書参照)。なかでも、ノルウェーは、養子が成人年齢に達したら養子縁組機関が情報へのアクセス権があることを書面で知らせなければならないとされており、併せて、養子縁組について子どもに伝えることを養親に義務付けています。

日本においては、2018年以降、養子縁組が成立したケースについては児童相談所の記録も、民間あっせん機関の記録も永年保管されることになりました。しかし、養子の出自を知る権利は、法律では明文化されておらず、どこに記録があるか分からない、記録の内容が不十分、記録があっても欲しい情報が提供されないなど、情報の入手が困難な方々も出てきています。また、永年保管が規定される以前に様々な機関等で行われた養子縁組についての記録に関しては、どのように対応すべきかについては定めがなく、記録が散逸している可能性も考えられます。

厚生労働省では、2019年度の調査研究報告書を参考に、「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんを受けて養子となった児童に関する記録の保有及び当該児童に対する情報提供の留意点について」(令和3年3月26日付 子家発0326第1号厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課長通知)という通知を出し、記録すべき情報及び記録が望まれる情報について整理するなど、進展も見られていますが、養子に提供できる情報の範囲や内容などについて、不十分であるとの指摘もされています。なお、当該通知は、民間あっせん機関を対象としたものですが、児童相談所運営指針では、各自治体の情報開示に当たって、参考にすることが望ましいと記載されています。

日本の状況を踏まえた上で、アクセスする権利を有する対象や範囲については、今後さらなる議論が求められるところですが、どこにどのような記録があるのかについて把握を進めると共に、入手できる情報があるかどうか、アクセスするにはどのようにしたらいいかを知りたい時に、より容易に確認できる方法やアクセス時のサポートの仕組みを検討することも重要な点だと考えられます。

(2024年12月6日)HITOTOWAこども総研 西郷

(出典):Tarja Poso, Marit Skivenes, June Thoburn (2021). Adoption from Care : International Perspectives on Children’s Rights, Family Preservation and State Intervention. Policy Pr . (タルヤ・ポソ、マリット・スキヴェネス、ジュン・ソバーン編著 西郷民紗(監訳).海野桂(訳).(2024).公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える 明石書店)

書籍情報

『公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える』
編 著:タルヤ・ポソ、マリット・スキヴェネス、ジュン・ソバーン
監 訳:西郷 民紗
翻 訳:海野 桂
出 版 社:明石書店
発 売 日:2024/11/28

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HITOTOWA

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

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