2024-12-26

【こども総研コラムvol.2】「公的ケアからの養子縁組」を読む−イギリスの養子縁組

2024年11月に『公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える』が明石書店より出版されました。本コラムでは、特別養子縁組や社会的養育、こども支援に関心のある方々に向けて、同書の一部をご紹介しながら、日本の現状にも少し触れたいと思います。 

今回は、日本でよく取り上げられる英国のなかで、イングランドにおける養子縁組の変遷について、その概略を取り上げたいと思います。 

日本では昭和62(1987)年に、民法改正によって特別養子縁組制度が導入され、翌年1月に施行されました。一方、イングランドでは、その60年以上前に養子縁組制度が導入されています。制度が運用開始されてから、100年近くが経過する国で、今日までどのような動きがあったのか、ジュン・ソバーン氏執筆の第2章「英国における公的ケアからの養子縁組」からご紹介です。 

●1926年に養子縁組法(The Adoption of Children Act1927)が制定され、1927年1月に施行されました。当時は形式的には、生みの親からの要望に基づく措置とされていたものの、背景には非嫡出子というスティグマや養育環境、経済的な問題があったとされています。 

●その後、養子縁組の件数は徐々に増え、1960 年代にはピークに達しますが、福祉の法規定の改善やスティグマの低減、避妊の利用により養子縁組数は減少に転じます。 

●1963年若者及び子ども法(Children and Young Persons Act 1963)以来、生みの親を支援して、子どもに家庭外養育が必要となる事態を避けること、そして、なるべく迅速に公的ケアを終了して家族再統合を目指すことが重視されます。 

●1975年児童法(Children Act 1975)では、裁判所命令での親権剥奪が定められ、子どもの利益にならない場合は家族再統合を止められるよう自治体の権限が強化されるとともに、里親が2年間ともに暮らしてきた子どもを養子とする権利を強めました。「永続的」な里親への措置や縁組後の生みの家族とのコンタクトも適切な場合は奨励され、子どもが公的ケアを6ヶ月受けているなら、パーマネンシープランを策定するという期限を設けました。 

●その後、親、子ども、養育者の権利のバランスを再検討する流れが進み、1989年児童法(Children Act 1989)では、子どもが適切な保護を受ける権利を強化しただけでなく、生みの親が、自分の子どもを養育できるように支援サービスを受ける権利も推進しました。 

●1990年代後期以降は、基本施策と実践の指針が変更され、ケアを終了して養子縁組する数が増加しました。自治体と養子縁組機関への資金供給が増えて、養親候補者を集めやすくなったためであるともされています。 

●2014年には養子縁組数が5,050件とピークに達しましたが、司法の側から親の同意なしで養子縁組することは、「それ以外に方法がない場合」に限って認められる、という規定が再確認されました。また、2002年に導入された「特別後見命令」の利用によって子どもを親族等のもとに措置する(kinship care:キンシップケア)数が増加しました。 

●2017/18年には、養子縁組数は3,820件へと減少に転じましたが、それでも0~17歳の子ども10万人当たり32人に相当し、他のヨーロッパ諸国よりかなり高い傾向にあります。 

イングランドでは、養子縁組法が制定されて以来、福祉の改善やスティグマの低減、政策の方針変更、里親の権利、生みの家族とのコンタクト、キンシップケア(kinship care)の活用など、様々な状況の変化によって、養子縁組の位置付けが移り変わり、その数も増減してきています。 

 どのようなシステムのもとで、子どもの最善の利益を検討するのか? 

それによって、養子縁組と養子縁組以外の選択肢を取るべきかが変わっていくものと考えられます。日本で議論を行う際にも、イングランドの歴史から学べることは多くあるのではないでしょうか。 

(2024年12月13日)西郷 

(出典):Tarja Poso, Marit Skivenes and June Thoburn (2021). Adoption from Care : International Perspectives on Children’s Rights, Family Preservation and State Intervention. Policy Pr . (タルヤ・ポソ、マリット・スキヴェネス、ジュン・ソバーン編著  西郷民紗(監訳).海野桂(訳).(2024).公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える 明石書店) 

【書籍情報】 
『公的ケアからの養子縁組 --欧米9カ国の児童保護システムから子どもの最善の利益を考える』 
編 著:タルヤ・ポソ、マリット・スキヴェネス、ジュン・ソバーン 
監 訳:西郷 民紗
翻 訳:海野 桂 
出 版 社:明石書店 
発 売 日:2024/11/28 

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明石書店:https://www.akashi.co.jp/book/b655551.html 
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HITOTOWA

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

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