2021-12-24
「居心地のよいまち」のつくり方と、続け方。【園田聡氏×奥河洋介「プロジェクトの価値を、社会の価値へ」(前編)】
interviewee:園田聡氏、奥河洋介
2021-12-24
interviewee:園田聡氏、奥河洋介
HITOTOWA INC.は2021年12月24日で設立11年を迎えます。一年の節目に、事業の現在地とこれからを考えるべく、2つの対談の機会を設けました。
第2弾のゲストは、『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』著者である、有限会社ハートビートプランの園田聡さん。HITOTOWA INC.からは、ネイバーフッドデザイン事業の執行役員であり、浜甲子園団地エリア(兵庫県西宮市)のエリアマネジメント組織「まちのね浜甲子園」事務局長の奥河洋介が臨みました。
メインテーマは「各プロジェクトの価値を、いかに社会全体の価値へつなげるか?」。
前編ではその前段として、地域やプロジェクトへの向き合い方を掘り下げていきます。都市における居心地のよさをつくるという共通点はありつつ、少しずつ異なる視点を持ち寄ったふたりの対話。さて、どのような展開を見せるでしょうか……?
──まずは簡単に自己紹介をお願いします。
奥河:HITOTOWAの奥河です。ネイバーフッドデザイン事業、なかでも兵庫県西宮市の浜甲子園団地一帯のエリアマネジメントにメインでかかわっています。枠組みは違えど、現場の取り組みにはプレイスメイキング(※1)の要素も多々あると感じていて。私たちは地域にばかり目が向きがちなところ、それを整理して社会へ発信されている園田さんの書籍を拝見して感銘を受けました。お話できるのを楽しみにしています。
園田さん(以下、敬称略):園田です。僕は都市デザイン、プレイスメイキングを専門に学んできて、今は有限会社ハートビートプランでその研究、実践に取り組んでいます。HITOTOWAさんのプロジェクトでは、ひばりが丘団地の取り組みを見に行ったことがあって。お会いするのを楽しみにしていました。
※1:プレイスメイキングは、都市空間において、愛着や居心地のよさなどを伴う公共空間を創出する、協働型の都市デザインの手法。単に物理的な空間をつくることではなく、人々の多様なアクティビティが生まれる「プレイス(居場所)」をつくることを目的とする。詳しくは園田さんの著書『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』をご参照ください。
──まちの居心地をよくするプロジェクトをいろいろと手がけているおふたりですが、そもそも、まちの仕事にかかわることになった背景とは。
園田:僕、一番好きなまちは「新宿の歌舞伎町」なんです。あれほど多様な人がいる場所って、日本で他にないんじゃないかと思っていて。いろんな人がいろんな状況を抱えながらそこにいる。あのまちには、それを受け入れる寛容性があると思うんですね。
一方で、学問で学ぶ都市計画や都市デザインは、用途と地域を決めて、ここに住む、ここで働くと型にはめていくものだったから、違和感があって。もっと多様性があり、世の中的には是とされないような人たちがいてもいいじゃない?と。そういう社会のために都市デザインの分野で何かできるかと考えていたとき、プレイスメイキングに出会ったんです。
プレイスメイキングは、個人でも始められるプロジェクトのあり方。だから、マイノリティの声を形にしていく手伝いができたらいいなと思っていて。その先で、いろんな人の居心地がよくなって、歌舞伎町みたいに寛容性のあるまちが増えていったらいいなと思いますね。
奥河:おもしろいですね。歌舞伎町、本当に多様ですもんね。私は、もともと都市計画などが専門なわけではないんです。新卒ではITメーカーに入って5年ほど働いたんですが、疲弊して辞めて。その後は青年海外協力隊でアフリカのセネガルに行ったんです。
現地語を学びながら、仕事以外でも家の近所で1日いろんな人としゃべりながら過ごす。そんな日々がすごく心地よくて。言葉もよくわからないのに、みんなが挨拶してくれて、友達が増えていく。この「近所の安心感」は日本よりセネガルのほうが豊かやなって。
それで帰国後は、過疎集落、東日本震災後の被災地、都市部の下町などに入って、コミュニティ形成に携わってきました。そのなかで、都市部の近所づきあいが希薄なことへの違和感や、近所の居心地がよくなると暮らしが豊かになることを改めて感じて。より専門性を高めようとHITOTOWAに入って、今の仕事をやっています。
──全然違う入り口から、近い取り組みへつながっているのはおもしろいですね。おふたりともさまざまな地域にかかわっていますが、プロジェクトで地域にかかわるとき、意識されているのはどんなことでしょう。
奥河:私がかかわる浜甲子園団地一帯のエリアマネジメントは、6年間現地に常駐する予定で、いま4年半ほど終わったところなんです。だから最近は「抜けるデザイン」にシフトしてきていて。私たちが抜けてもちゃんと価値が続くために、少しずつ我々の浸透度を減らしていくというか。まちの方々による自走に向けて、バランスを意識していますね。
園田:それが一番難しいところですよね。僕らは住宅エリアより、街中の商業的なところが多いんですが、根本の考え方は一緒だなと思います。補助金を財源の基盤とした組織が活性化のイベントをやっていても、補助金が終わったらもうできない、みたいな状況はよくある。そうではなくて、共創者というか、その場を訪れた人が自分たちも何かを一緒に提供する側になろうと思える仕組みづくりが大事だなと。
奥河:そういう「かかわりやすさ」は結構、意識されていますか?
園田:そうですね。そこがないと続かない。僕らも3〜5年くらいのスパンで事業の提案をしていて、その後は自走を目指すゴールセットがあります。だから、僕らだけテンションが上がってもうまくいかなくて(笑)。最初は僕らが踊って見せることも必要かもしれないけれど、やっぱり地域の方に、「あ、おもしろそうだしやってみよう」と自分ごとにしてもらうことが一番重要だし、難しい。
奥河:難しいですよね。そうした仲間づくりや巻き込み方で、意識されていることはありますか?
園田:地域に入っていくとき、結構リストをつくってもらうんです。そのまちで、話を聞くべき50人くらいのリスト。町会長など役職のある人は調べればわかるので、むしろ飲み屋の亭主とか、仲間内ですごく人気のあるバンドの人とか。そういう人を教えてもらって、話に行って。
奥河:私たちもまちに入るとき、先入観なくいろんな人に会って丁寧に話を聞くことを大事にしているので、すごく共感します。やっぱり、そういう声がヒントになりますか。
園田:そうですね。とかく僕らのフィールドは公共だから、行政も「みんなの意見を聞いて決めよう」となりがちなんです。すると、どこまで合意形成ができたらいいのか、あやふやな状態になってしまう。だからまず、意思決定者をはっきりさせる必要があって。「みんな」と言うなら、その「みんな」のリストをつくってほしいと言うんです。
確かにまちはみんながかかわるものだけど、たとえば豊田の「あそべるとよたプロジェクト」(※2)でつくったスケボーができる広場って、面積で言えば1200㎡くらいなんですね。豊田市の人口は約43万人ですが、1200㎡の広場をどうするかを、43万人全員で決める必要はないと思っていて。周辺の方々やスケーターの方など、関連が深い方々の合意がとれればそれで決めましょうと。公共空間は民間のプロジェクトと違って、クライアントと意思決定者が別なんです。そこが難しくもあり、おもしろくもありますね。
※2:あそべるとよたプロジェクト:愛知県豊田市でのプレイスメイキングにおけるプロジェクト。豊田市は2016年〜2027年の12年間で駅前空間を「車から人へ」シフトチェンジする計画を掲げる。特徴は、公共空間の事業を「つかう(活用)」取り組みと「つくる(大規模なハードの再整備)」の両輪で進めること。あそべるとよたプロジェクトはその「つかう」取り組みのメイン。市民・企業・行政が一体となってアイデアを出し合い、市民の”やってみたい”ことを実現しながら、より使いやすい広場をつくりあげていく。
──地域を集団として捉えるのではなく、一人ひとりの顔を見ながら進めていく。そうした個々の課題をプロジェクトに生かす上で、大事にしていることは。
奥河:どんな課題も、「当事者」と「そうじゃない人たち」に分かれてしまうと思っていて。企画に参加している住民は、自分たちの視点がすべてだと思ってしまうことがあるし、デベロッパーも建物が建つ前には住民がよく見えていなかったりする。そこで「自分たち以外の視点を含めて考えよう」と投げかけることは、現場に寄りそう外部者としての役割かなと思います。そこを想像することでより企画もよくなるよね、と。
園田:たとえばあるまちに新しく住宅を建てる場合、どんなふうに進めていくんですか。
奥河:大きく2つの視点があって。ひとつは、そのまちのいいところを残して活用していく視点。もうひとつは、これから引っ越してくる人たちの世代や家族構成から想定される困りごとを汲みとっていく視点。そうした多様な視点でプロジェクトをつくっていきます。もちろんその後も伴走するので、暮らしが始まるなかでブラッシュアップしたり、ときには大幅に見直すこともありますね。
園田:そのあたり、なかなか難しそうだなと思って。住宅って、そこに家を買う決断までしてきた方々だから、その場所への思い入れも強いと思うんですよ。共用部でこういうことをやりたい、という人もいれば、一方で反対意見もあるかもしれない。それを調整していくのは大変そうだなと。逆に僕らだと、広く一般市民の中から何か「やりたい」と思ってる人を見つけることが大変なんですけど。
奥河:なるほど、おもしろいですね。ただやっていて思うのは、何か「やりたい」と思っていなくても、なんとなく「いいまちになってほしい」とか「楽しそうならちょっとかかわりたい」と感じている人は結構いるなと。
たとえば浜甲子園団地エリアでは、「保育所や幼稚園をどうやって選べばいいか悩んでいる」声をたくさん聞いたことから、いろんな保育所や幼稚園の在園児の保護者に話を聞けるイベントをつくったんです。それが好評で。しかもそこに参加して助かった人は翌年、今度は情報提供者になってくれる循環が生まれて。
こんなふうに「やりたい」に基づかなくても、「ちょっと困ったな」の声を丁寧に拾うことで、大事なことがいろいろできるんじゃないかなと、最近よく思っています。
園田:その情報、大事ですよね。僕らがかかわる豊田のまちは名古屋から1時間くらいなんですけど。豊田で話を聞くと、「名古屋の情報はいっぱいあるけど、住んでいる豊田の情報は、何を見ていいかわからない」って声があって。そういう生活圏の情報って、口コミ以外ほとんどないんですよね。
奥河:社会課題に近いところだと、産前産後にまつわる情報とか、高齢者の居場所、防災情報もそうですよね。前に台風で停電したとき、「断水しても使えるトイレ」の存在を、近所に友達のいる人はみんな知っていたのに、近所に知り合いのいない人は知らなかったことがあって。ローカルの情報を得られると、そのエリアの居心地や豊かさが向上するというのは、おもしろいところだなと思います。
園田:その話、しっくりきますね。マスに向けたものって、結構シフトチェンジしてきていて。それよりもローカルとか、趣味のコミュニティとか、ニッチだけれど一定の商圏にはなる集まりが、これからはより求められていく。
まちを見るべき解像度も、どんどん上がっていて。たとえば「若者」と一口に言っても、その嗜好性はさまざま。いろんな嗜好性のなかで、そこで生活する人の選択肢をどれだけ増やせるか。その選択多様性が、都市にとってすごく重要じゃないかな、と。
奥河:ああ、すごくわかります。それこそ、何百人集まるイベントを求められることが多いですけど、住んでいる人としては「親しい3人でいい」ところがあって(笑)。
園田:間違いないですね(笑)。
奥河:結局、大人数集まるイベントを企画すると、ありがちなにぎわいの絵に寄せざるをえなかったりもして。でもそういうイベントに全然来ない人に「何だったら来ますか」と聞いて、その声に沿って企画したら、近い価値観を持つ3人ぐらいの集まりができる。そういう小さな集まりが多様にあって、どこにも行ったことない人はいないほうが、居心地はよくなるだろうなと思うんです。
園田:おっしゃる通りだと思いますね。集客の議論は僕らもあって。人を集めたいだけなら芸能プロを呼んだらいいけど(笑)、それをやってもまちには何も残らない。だから延べ1000人呼びたいとしても、1000人が1回来るものではなくて、100人が10回来るものを提案します。頻度を増やせばまちに出る機会が増えるし、リピーターになってくれる機会になる。結果、そこに人がいる状況ができていく。
奥河:わかります。
園田:そういう小さな集まりは、いいですよね。遠方だと年間10回行くのは厳しいけど、住んでいる地域なら毎月行けるし。ローカライズされたものには価値があるし、求められていると思います。
奥河:運営的にも、1000人のイベントをやるとなると大変だけど、10人の規模ならできるって人、まちの方でも結構いると思うんですね。そういう意味でも現実的だし、「やりたい」にかかわってもらうひとつのあり方としてもいいなと思います。
──先ほど「抜け方のデザイン」という話も出ましたが、伴走している自分たちが抜けたあともその場が続いていくために、意識していることは。
園田:その場を続けたいという気持ちが、「僕らじゃない誰か」のほうが強い状況でスタートするのが大事だと思っていて。地域のいろんな人に話をしにいくとき、僕らは「こういう場があるので使ってください、お願いします」って言い方はしないようにしてるんです。その広場にはそこでしか果たせない役割があるから、その場で何かをやりたい人と、その場を持っている人は対等な関係で話をすべきなんですよね。
奥河:なるほど。
園田:たとえば「あそべるとよたプロジェクト」で、広場の活用についてスケーターの方々に話しに行ったときも、その人たちが「やりたい」なら、行政も「お願い」する必要はなくて。「ではその場を提供するので、みなさんも一緒に周辺のいろんな人たちと話をして、信頼関係をつくっておいてください」と、対等な関係で始まったんです。
そうすると彼らも一生懸命周辺の方に挨拶して回って、自分たちがつくる場だという思いも強まっていく。ルールも自分たちでつくって、利用者にも「ちゃんとルール守れよ」って言ってくれるようになるんです。せっかく時間をかけて信頼関係をつくったのに、理解ない人に散らかされてその場がなくなったら大変なので。
逆に「やりたい」人にヒアリングだけして、「じゃあスケートパークをつくりましょう、はいどうぞ」とやると、たぶん荒れて終わる(笑)。だから僕ら以外の「誰か」の思いがあって、そこを技術的にサポートしていく形が一番健全だなと思いますね。
奥河:一方で、かかわり始めた人がやり続けることだけが正解なのか、とも考えていて。スケボーだとその趣味は続きそうですが、たとえば家族構成によって、「小さい子がいるうちはやりたいけど、成長したらやらなくなる」こともあると思うんですよ。
私たちが抜けた後、「子どもが成長したら何もなくなった」ら、それも違うなあと。立ち上がった事業が継続するだけじゃなくて「新しいことが、そのときの暮らしに応じて沸き立って事業になる」こと自体が続かないとな、と思ったりもします。
園田:ああ、そうですね。
奥河:そういう、新しい事業をつくるプロセスの、しんどさを含めた喜びをシェアしていきたいなとか。いいところだけ見せないことも大事だなとか(笑)。
園田:おっしゃる通りですね。先ほどもありましたけど、「やりたい」人って少なくて、「手伝いたい」人は結構いる。だからリーダーをやる人も、手伝いたい人たちが入れるかかわりしろを残せるといいですよね。それで手伝う人たちも、かかわっているとだんだん、「私だったらこうやってみたいな」とか思い始めたりして。
奥河:そう、かかわり方にはステップがあるんじゃないかと思っていて。参加した人が、次はちょっと手伝って、その次は実行委員会に来て自分の役割を持つとか。潜在的なマインドとしては「手伝ってもいい」の人かもしれないけど、何度かかかわると、少しずつ深く中へ入っていったりとか。
地域で事業が行われると、そういうかかわり方のステップアップとか、「自分の時間を地域に使う」考え方の底上げが、少しずつ起こせるんじゃないかと思って。簡単ではないけれど、そういう機会を用意していきたいなと思っています。
園田:事業だといい意味でちゃんと責任が発生するから、いいですね。重くなりすぎてもよくないけど、何の責任もないと、言いたいだけの人が集まってきて収集がつかなくなる。そのバランスは大事だなと思います。
—–
後編ではいよいよメインテーマ「プロジェクトの価値を、いかに社会全体の価値へつなげるか?」についてディスカッションしていきます。近年のコロナ禍によって、生活圏の価値が改めて見直されている……、という話題も登場。ぜひ最後までご覧ください。
・社会の縮図は、現場にあり
・再現可能性があれば、日本中に広がっていく
・都市デザインを「現場と学会の間」で議論する
・コロナ禍で見直される「ご近所」の価値
・暮らしも、まちも、自分たちの手でつくっていく
・居心地のよいまちを、ともに描いて
<後編はこちら>
園田 聡 さん
有限会社ハートビートプラン。1984年埼玉県所沢市生まれ。2009年工学院大学大学院修士課程修了。商業系企画デザイン会社勤務を経て、2015年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。2016年より現職、日本都市計画家協会理事他。専門は都市デザイン、プレイスメイキング。現在は、大阪・東京を拠点にプレイスメイキングに関する研究、実践に取り組む。著書に『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』。
奥河 洋介
HITOTOWA INC.執行役員、一般社団法人まちのね浜甲子園事務局長。兵庫県西宮市出身。大学卒業後、首都圏でITシステム導入の営業を4年半担当。その後JICA青年海外協力隊でセネガルへ。近所の関係性の重要性を実感し、帰国後は高齢化の進む集落(兵庫県養父市)、東日本大震災後の被災地(宮城県南三陸町)、校区自治組織の中間支援組織(大阪市淀川区まちづくりセンター)など住民自治の現場にかかわる。2017年より現職。「徹底的に地域に寄りそう外部者」として、日々暮らしづくりのサポートを行う。
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