2024-07-30

自治会運営×イベント実施、両輪の成果で描けた未来─シントシティ3年間の伴走を終えて【社内対談・前編】

interviewee:

1,411戸の大規模マンションを中心としたさいたま新都心のプロジェクト「SHINTO CITY(以下、シントシティ)」では、2024年5月19日をもって、HITOTOWAの伴走終了を迎えました。

HITOTOWAは、本プロジェクトにおけるコミュニティプログラムの全体コーディネートを担当。2021年7月より、地域の企業・団体をパートナーとした「コミュニティプログラムの実施」および「独自の自治会設立・運営」の伴走を行ってきました。

2軸での伴走が相乗効果を生んだ、こちらのプロジェクト。“既存の枠組み”を最大限に活用し、自治運営の新しい形にチャレンジしてきたプロジェクトでもあります。

企画から6年、伴走開始からは約3年を経て、プロジェクト終了に際し、担当メンバーである寺田 佳織浅野 北斗鳥山 あゆ美の3名で社内対談を行いました。

▼ 前編では、伴走最後の自治会総会を振り返りつつ、企画背景や仕組みの設計で工夫したこと、それが実際の3年間でどう作用してきたか?を話します!

 目次 

 

 

対談者紹介

寺田 佳織(写真右):2018年4月より、シントシティにおける取り組みの全体設計を担当。「シントシティキャンパス」のコンセプトづくりやパートナー団体との関係構築を行う。自治会発足後、鳥山とともにその運営をサポート。

浅野 北斗(写真中央):2020年より本プロジェクトに参画し、プログラムの詳細設計などを担当。パートナー団体とのコミュニケーションや「シントシティキャンパス」の企画運営、自治会主催イベントの伴走支援を行う。

鳥山 あゆ美(写真左):2020年末の入社後すぐ本プロジェクトに参画し、シントシティ自治会の設立準備を担当。2021年7月の自治会設立後は、役員の方々と個別のコミュニケーションを大切にしつつ、自治会の自走に向けた仕組みづくりや運営フォローを行う。

安心してバトンを渡せた、伴走3年目の総会

──ちょうど昨日(取材前日)が、HITOTOWAの伴走する最後の自治会総会だったとか。

鳥山:そうなんです。これで4回目の総会ですが、もう今回は私、ほとんど何もしていなくて。準備段階の打ち合わせでは役員の方と一緒に確認を進めつつも、当日の運営は役員の方が完璧にやってくださいました。

振り返ると、2021年の自治会設立1年目はもちろん、2、3年目も、私とてらさん(寺田)で総会に向けた台本準備や、役割分担を行ってきて。徐々に私たちが関わる比率が少なくなり、今回は本当にほぼ全部を役員の方々にお任せできたという形です。

総会の冒頭では、役員の方が「自治会として大切にしたい考え」や、「今後自治会が目指したい姿」を発表しました。一例をあげると、10年後の自治会の姿として「誰かの『やってみたい!』を後押しし、誰もが主役になることを応援する場所」とか。

内容は事前に役員会のなかで、皆さんと会話しながら整理したのですが、その話し合いのときも皆さんが「ゆるやかなつながりの価値」を自分ごととして体得されていらっしゃるのをひしひしと感じていて。昨日はその指針を、役員の方ご自身が考えた言葉で語られているのを聞いて、感動で泣きそうになりました。


総会に向け、役員会では、役員の方に一人ひとり意見を述べてもらい、「自治会で大切にしたいこと」「10年後の自治会の姿」などを整理していった。

寺田:総会は年に1回だけれど、そこに表れるのは、日ごろの役員会で積み重ねてきたことだなと感じます。3年という時間をかけて、役員会もしっかりと運営が回る体制ができ、「考え方」や「目指す姿」の議論に時間を使えるようになってきた。その変化はすごく大きかったなと。

鳥山:確かにそうですね。自治会を設立した初年度は決めるべきことが多く、それを消化するので精一杯でした。変化し始めたのは、2年目の後半ぐらいから。月々の活動が各担当から共有され、それに対して意見交換する時間の比重が少しずつ高まっていきました。そうした積み重ねの結果で、昨日があったと感じます。

浅野:「皆さんの思いとして、自治会をどうしていきたいか?」など“組織のあり方”に関する問いは、常々、2人から役員の方々に投げかけてもらっていたと感じていて。役員の方々自身が普段から考え続けてきたからこそ、総会でも実感をこめた話し方になったのではないかなと思います。

企画設計の背景──3年で、何を残すべきか?

──さて、そんなシントシティの「今」がある背景について、ここからはプロジェクトの全体像を振り返りつつ、掘り下げていきたいと思います。そもそも、本プロジェクトの背景とは?

寺田:このプロジェクトは、大きな区画整理事業の中の、1つの住宅プロジェクトとして立ち上がったもの。2018年当時は周辺に同じようなマンションもなく、研究所跡地にできた背景もあり、受け継がれる地域性が特にあったわけではありませんでした。

そこでデベロッパーの方々が描くマンション自体のコンセプトや、さいたま市の「未来を切り拓く子ども」などのコンセプトを、どうやってマンションコミュニティの仕組みやプログラムに落とし込んでいくか、から発想を始めて。

企画の設計段階で最も考えたのは、「私たちは、何を残すべきか」。3年間で抜ける立場として欠かせない、重要な視点です。

マンションには1年目、2年目と段階的に入居が進むことになっていたので、新しい方々が出会うきっかけとなるプログラムは3年にわたって提供すること。また、イベントを続けるために必要な「仕組み」と「財源」をしっかりと設計することを前提に進めていきました。

ただ自治会は、有償スタッフを雇用するような枠組みではないですよね。基本的にはボランティア、かつ2年に1回は役員が変わる枠組みのなかで、本当にHITOTOWAが抜けた後にも持続性が担保できるのか。ここは特に検討を重ねました。

「パートナーとの協働プログラム」という設計にしたのは、そうした背景からです。地域で活動する企業や団体の方々にプログラムの実施主体に入っていただくことで、自治会が困ったときに意見を聞いたり、「こんなことがやってみたい」と相談しあえる関係性は、3年かけて残していけるのではないかと、その体制づくりに力を入れました。


学びをキーワードに、「シントシティキャンパス」というコンセプトを策定。くらし学部(遊び・子育て)、まなび学部(教育・スポーツ)、たいけん学部(社会体験)、もしも学部(防災)の4学部を開講し、地域のパートナー企業・団体と3年間にわたり独自プログラムを実施してきた。

浅野:ネイバーフッドデザインは多様で寛容なつながりを目指す価値観がベースなこともあり、“自治会”という古くからある枠組みにどう馴染ませていくかはポイントだったんじゃないかと思います。自治会の設計については、どんなことを意識しましたか?

寺田:1つは、HITOTOWAのこれまでの事例も踏まえて、サークルや活動クラブなど「後からの仕組み化が難しい」部分は最初から枠組みをつくったこと。もう1つは単純に、「自分が入りたいかどうか」。今回は入居者層が自分に近いこともあり、自分が住民だったらどうか?の視点で、自治会の検討ポイントを洗い出しました。

また、「自治会の既存事例をあまり調べない」ことも意識していたと思う。勉強しすぎると、凝り固まった仕組みになってしまうから。自治会という既存の枠組みをうまく使って、「どうやったらおもしろくなるか?」という視点で考えるようにしていました。


役員募集のチラシも、堅いイメージを払拭するため、写真を使用し、カラー印刷で配布。「自分が住民としてこのチラシを受けとって興味を持つか?」を前提に作成した。

イベントと自治会伴走、両輪があったからできたこと

鳥山:私が参画したのは自治会設立直前のタイミングからですが、まさに企画段階で構想されていた「自治会伴走とイベント運営」の両軸が、お互いにうまく作用している感覚を、2年目の終わりごろからは特に感じてきました。

北斗(浅野)が2か月に1度ほどの頻度で「ワンデイカレッジ」という、パートナー団体との協働イベントを実施していたけれど、そのイベントがあったからこそ、住民の方々に「ゆるやかなつながりっていいよね」の体感が伝わっていったと思っていて。

役員会でイベント企画をするときも「あのときワンデイカレッジでやった、あれがやりたいね」と話がぽんぽん出てくる。役員の方々も“参加者”としてイベントを楽しみ、住民全体で同じ景色を見てこられたことは、意義の大きいことだったと思います。


自治会主催イベントの様子。中庭空間を活用したビアガーデンと、住民創発型マルシェを開催。なお、この写真も住民の有志サークルの撮影協力によるもの。

浅野:僕はむしろ、自治会伴走を丁寧にしてくれているから、イベント運営がうまくいっているんだと感じていましたね。

自分の反省点でもあるのですが、イベント担当としては、1,400戸という規模を考えると、参加人数を増やすことに追われてしまう面もあって。小規模なら一人ひとりと丁寧にコミュニケーションをとれるところ、大規模ではそれが難しい、とジレンマを抱えているところもあったんです。

だからこそ、てらさん(寺田)や、あゆさん(鳥山)が、自治会伴走のみならず「役員の方一人ひとりの思いに伴走」してくれていたことに、支えられていたと思う。それがあるから、僕も安心してイベントの企画運営に尽力することができたなと。

寺田:1,400世帯に対して、10数人の役員で自治会運営をする状況を考えると、例えばもし、HITOTOWAがイベント伴走を行わず、単に自治会伴走だけに入っていたら、設立と同時に目先のイベント運営に追われると思うんだよね。住民の方々からは「自治会が何か活動やイベントをやってくれるんじゃないか」という期待もあるはずだから。

その状況に陥ると、「自治会としてどんな組織や未来を目指すか」の議論どころではなくなってしまう。だから、ワンデイカレッジで住民の方々がつながるきっかけが定期的に提供されるなかで、自治会が3年間かけて組織として安定しつつ、並行してイベントの実施例を見て「自分たちとしてここは引き継ごう」と意見交換ができた一連の“流れ”は、重要だったと思います。

鳥山:昨日の総会では、役員の方から「HITOTOWAの伴走終了に伴って、ワンデイカレッジも終わってしまうので、『キカクブ(イベントを企画する自治会内のクラブ)』への予算を厚くつけました」という説明がありました。

ワンデイカレッジがなくなるにあたって、「イベントの回数を減らす」選択肢もあったと思うんですよ。でも皆さん、そうしなかった。それは、ワンデイカレッジでつくり出す景色のよさをみんなが知っていて、価値を実感していたからではないでしょうか。

「提案しない」ことも、大切に

──それぞれの立場で伴走するなか、具体的に意識してきたポイントは?

鳥山:HITOTOWAでは「まちにわひばりが丘」や「まちのね浜甲子園」のように常駐拠点を持つプロジェクトもありますが、逆にシントシティは拠点を持たないので、「月に1度の限られた時間でどれだけ話すか」が大事なポイントになっていました。

役員会への参加はもちろん、その前後でのコミュニケーションは大切にしようと、てらさんともよく話していて。事前に誰が誰にお声がけするかの分担も決めておき、個別にお話を伺うようにしていました。

そのなかで、大変そうな方にはフォローに入ったり、「この間のあれ、すごくよかったですね」とその方の関わったイベントへの感想をお伝えしたり。会議ではさらっと流されてしまう出来事の背景にある、一人ひとりの状況や思いにフォーカスすることを大事にしていました。てらさんは、どうですか?

寺田あまり「提案しない」ことは、大切にしてきたことのひとつかなと思います。例えばいま出た「月に1度」という頻度も、私たち視点では足りない面もあるけれど、役員の方々にとってみれば、それでも多いと感じる方もいるかもしれない。なぜなら前提としてボランティアで、抽選でたまたま役員になった方々も多いから。そのなかで役員会の回数を増やすことは役員の方々の負担になってしまう。

つまり、私たちの視点から「これがいい」と提案したものが、相手にとって必ずしも「いい」とは限らない。ましてHITOTOWAは3年で抜ける立場。そこにいるメンバーの方々が、それぞれ何が得意で、どんなふうに役員の仕事を進めたいかは、その方自身にしかわからないですよね。

だから私たちは、専門家として「こういうふうに進んでいこうと考えます」と道筋はお示ししつつも、具体的なやり方は提案せず、住民の皆さんに委ねる姿勢は大切にしてきました。あゆみん(鳥山)も、「こうやればいいですよ」と言いたくなるところをぐっとこらえることはあったと思います。

そういう接し方一つひとつから私たちのスタンスを理解していただくとともに、役員の方々にも「自分たちがつくってきた」自負のようなものが生まれていったはず。


「自治会の取り組みを発信しよう」と自発的に声があがり、役員の方々主導で自治会の活動紹介の生放送を行った。「役員だけでは不安」との声に応え、鳥山も参加してサポート。

住民の方々だけでなく、北斗も、パートナー企業・団体の方の「こういうことをやってみたい」を丁寧にすくい上げて企画に反映してきたよね。そうした積み重ねが、住民の方々のいまの捉え方につながってきているんじゃないかと感じます。

浅野僕らは「考え方」を提供する立場であって、「具体的なやり方」や「結論」を提供する立場にはないことは、HITOTOWAで働くなかでいつも考えていて。企画に対して質問を受けても、「僕らはこんなふうに考えてました」は答えるけれど「こうしたらいいですよ。」は言わない、日々の振る舞いでも意識しています。

僕らのスタンスという意味では、週に1度はこの3人で打ち合わせをして、自治会とイベント伴走の両輪を、都度すり合わせながら進んできたことも大きいと思う。例えば「来月のイベントはこんな目的を持って、こんなふうにやりたい」と僕が話して、2人から「じゃあその後に自治会の役員会があるから、こうつなげよう」と意見をもらったりとか。

役割分担はありつつも、分断するのではなく、丁寧にすり合わせて連携していく。こうしたあり方が少しずつにじみ出て、住民の方々にも届いていたなら嬉しいですね。

“既存の枠組み”の可能性に挑む、自治運営の新しい形

寺田:さっきも少し話に出た「まちにわひばりが丘」や「まちのね浜甲子園」などのプロジェクトは、常駐拠点があったり、持続性のために収益を生む仕組みをつくって有償スタッフの方を雇用したりと、仕組み自体が先進的という面があったよね。

対してシントシティは、あくまで既存の枠組みを最大限に活用し、住民主体の自治運営の新しい形を示した、大きなプロジェクトだったと思います。自治会という古くからある枠組みの活用もそうだし、パートナー企業・団体の方々も、私たちがまちに入る前から活動をされていた団体の方々だったから。

一般的に“自治会”というと皆さん、「よくわからないけど、とりあえずあんまり入りたくないな」「面倒くさそうだな」と思われてしまう。でもそこにとらわれずに、その枠組みを活用することに楽しさを見出した住民の方々が、おもしろがって走り出した結果、すごく新しい取り組みができているのがシントシティなんじゃないかなと

私たちが設計した枠組み自体を、想定以上のスピードで、住民の方々自身がポジティブに“壊していってくれた”ところが、何よりすごいプロジェクトだったなと、3年間を経て改めて思います。そういう意味では、新たな自治運営の形を模索する、ほかの地域の参考になる要素もたくさんあるはず。

浅野:「想定以上」は本当にそうですよね。僕らの力だけではない、と常々感じていました。住民やパートナーの方々、デベロッパーや管理会社の方々まで、周囲とのシナジーがとても大きかった!

鳥山:私も、住民の方々に引っ張っていただいたエピソードはいくらでもあります。後編ではそのあたりもいろいろと語りましょう。

後編に続く>
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▼ 後編では、住民の方々がどんどん走り出したエピソードや、その環境づくりのポイント、及びパートナー団体や管理会社、デベロッパーとの関係性などを話します!ぜひあわせてご覧ください。

主体性を存分に発揮してもらうには? コミュニケーションの工夫と協力体制─シントシティ3年間の伴走を終えて【社内対談・後編】

後編・目次
・先陣きって走り出す、変えていく。住民の方々の姿
・決めつけない。柔軟に。目線を合わせる
・パートナー企業・団体との信頼関係をどうやって育むか
・管理会社、デベロッパーとの協力体制がもたらすもの
・おわりに──ともに走り抜けた3年間を礎に、未来へ

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人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

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