2019-10-31

ともに助け合える街をつくるために、HITOTOWAが取り組む事業とその背景にある想いとは(前編)

    interviewee:奥河洋介 西郷民紗 津村翔士

    「ともに助け合える街をつくる」をビジョンに掲げ、企業や市民とともに、都市の社会環境問題の解決に取り組んでいるHITOTOWA。このビジョンを実現するために取り組んでいるのが、「ネイバーフッドデザイン」「ソーシャルフットボール」「CSR/CSVコンサルティング」の3つの事業と「Community Crossing Japan」「HITOTOWAこども総研」という2つのプロジェクトです。

    どれもHITOTOWA独自の取り組みであるため、なかなかイメージがわきづらいかもしれません。そこで、それぞれの事業でどのようなことに取り組んでいるのか、なぜ求められているのか、どのような成果が生まれているのか、関西支社長である奥河 洋介、事業執行役員である西郷 民紗、津村 翔士の3人にインタビュー。前編では、HITOTOWAの事業の中心となる「ネイバーフッドデザイン」について話を聞きます。

    団地のコミュニティに伴走する「ネイバーフッドデザイン」

    –「ネイバーフッドデザイン」という言葉に、あまり馴染みがない方も多いかと思います。「ネイバーフッドデザイン」とはどういったものなのでしょう?

    奥河:「ネイバーフッドデザイン」は、近くに住む人々同士の信頼関係づくりを通して、自然災害や子育て、独居老人の増加、大きな環境負荷といった都市が直面している課題を解決していくことだと、私たちは定義しています。

    具体的には、集合住宅や商業施設をフィールドに、地域データや住民インタビューなどの調査に基づいたコミュニティのコンセプト企画から、スペースの企画運営、住民主体の団体の立ち上げ、最終的にコミュニティが自走するまでの伴走支援までを行います。

    –なるほど。地域で人々のつながりをデザインすることに、川上から川下まで関わっているのですね。実際に奥河さんが関わっているプロジェクトについて教えていただけますか?

    奥河:はい。まず前提として、HITOTOWAが取り組む「ネイバーフッドデザイン」は、メンバーがひとつの地域に入り込む「拠点常駐型」と、複数のコミュニティを行き来する「地域回遊型」があります。私は関西を拠点に、「拠点常駐型」でネイバーフッドデザインに取り組んでいます。

    私は、2016年から始まった、兵庫県西宮市にある浜甲子園団地の再開発に伴う活性化プロジェクト「まちのね浜甲子園」に関わっています。「あたたかなつながり、ぬくもり、やさしさがある街」となることを目指すエリアマネジメント組織「一般社団法人まちのね浜甲子園」の事務局としてHITOTOWAが入り、事業者と住民が連携しながら暮らしやすい街をつくる取り組みに伴走しています。

    –具体的には、どんな活動を?

    奥河:浜甲子園団地エリアに新しく建てられたマンションの1階に設けたコミュニティスペース「HAMACO:LIVING」を拠点に、街の歴史文化を継承しながら、新しい住民ともともと住んでいるた住民との良好な関係性や地域で課題を解決できるような仕組みをつくるエリアマネジメントを展開しています。


    HAMACO:LIVINGの様子

    また、2018年10月14日には2つ目の拠点として、「OSAMPO BASE」という、こだわりの自家製パンとフレッシュ野菜を使った料理を提供するカフェをオープンしました。


    OSAMPO BASEは、提供しているフードにもHITOTOWAのこだわりがある。

    コミュニティスペースもカフェも、誰でも気軽に立ち寄って、ゆるやかな人間関係をつくることを目指して開いた場所です。とはいえ、「誰でも来てくださいね」と声をかけたところで、そんなに気軽に来てくれるわけではありません。なので、まちなかでお会いした方とのコミュニケーションを大切にしたり、地域の事業者や大学との連携のための会議を行ったり、団地自治会の方々の活動を応援したりと、チームを作って浜甲子園団地再開発エリアに居続けながら、地域の人のコミュニティづくりに伴走しています。こうした地道な取り組みが評価され、「まちのね浜甲子園」は2017年度にグッドデザイン賞(ファインシティ甲子園として受賞)を、2019年度には都市住宅学会長賞を受賞しました。

    –「まちのね浜甲子園」が始まった背景には、どのような課題があったのでしょう?

    奥河:もともと浜甲子園団地は、団地の高齢化率も独居率も50%前後と、高齢化と孤立化が進んでしまったエリアだったんです。そんななかでも団地自治会を中心にお祭りなどのコミュニティ活動を熱心に進めていました。ですが、これ以上人々の社会的な孤立が進行していくのは、このエリアでの暮らしにとって大きな課題だという認識が、デベロッパーや住民の共通認識としてあったそうです。そこで建て替え再開発に伴う形でHITOTOWAが、これまで培ってきたネイバーフッドデザインのメソッドを活かして浜甲子園団地再生事業区域のエリアマネジメントにご一緒させていただくことになったのです。

    –ハードではなく、ソフトの側から課題解決をしていこうと。

    奥河:そうです。もちろん、綺麗で丈夫な家を建てるといったハード面のアプローチも大事です。しかし、防災減災や子育て、独居のお年寄りの増加などの課題を解決するためには、人々のゆるやかなつながりがある暮らしづくりという、ソフト面でのアプローチも必要不可欠なんです。

    –2019年でスタートから3年ですが、どのような変化がありましたか?

    奥河:新たに暮らしはじめた方々は、最初はコミュニティなんてなにもない、いわば「全員他人」のような状況でした。それが、次第に私たちが企画したイベントやスペースに人々が集まるようになり、いまではほとんどのイベントやサークルが、住民さん主導で行われるようになっています。私たちの知らないところで、住民のみなさんが自然とつながり、良い暮らしを育んでいる。そんなことが増えてきているように感じています。

    –なにか記憶に残っているエピソードはありますか?

    奥河:とても記憶に残っているのが、あるおばあさんのことです。コミュニティスペース「HAMACO:LIVING」で企画したウォーキングの講座を受講していたおばあさん同士がサークルをつくって、毎週7、8人で集まってウォーキングをするようになって。おばあさんたちはそのうち、ウォーキングだけでなく集会所を借りて卓球をしたり、一緒にランチを食べたり、お花見をするようになってきていました。

    でも、そんなおばあさんのなかの一人は、最初は週1回のサークル活動の日にしか家から出なかったんです。しかも、活動に来るたびに「旦那さんを亡くしたのが悲しい……」という話を、泣きながらわたしたちにしてくるんですよ。なので毎回、コミュニティスペースのスタッフが順番で30分ぐらいずつ、「うんうん」と聞いていました。

    あるとき、そのおばあさんの息子さんがコミュニティスペースに来て、こう言うのです。「母は、コミュニティスペースに行くときだけ、元気に家を出ていくことに気づいた。だからこのコミュニティスペースに植木鉢を置かせてもらって、これから植木が花をつけるまで、水やりに毎日通わせてもいいでしょうか」と。

    それから、おばあさんはコミュニティスペースを目指して、毎日600mくらいウォーキングして、水やりして帰るようになりました。すると、日に日におばあさんが元気になっていくんです。最近ではまったく泣かずに、気持ちよくみんなに挨拶して帰るようになりました。もう、私たちスタッフが話を聞かなくても、来た人と笑顔でおしゃべりをするようになったんですよ。

    –ネイバーフッドデザインによって地域につながりが生まれた、象徴的なエピソードですね。

    奥河:お年寄りは、施設のお世話になるレベルの方でなくても、このおばあさんのようにつらい時があると思うのです。そういった方のつらさを、ご近所のつながりを通して、ゆるやかに解決していけるのがネイバーフッドデザインなんです。

    –一方で、そうしたエピソードはなかなか事業の成果として評価されないのではないかと思います。

    奥河:それが、顧客パートナーとなってくださっている企業のみなさまも、喜んでくれているんです。「一般社団法人まちのね浜甲子園」はデベロッパー7社が開発事業者となっており、毎月会議で現場の状況を共有しているんですが、たしかに最初の頃は、イベントの回数や参加人数の数値を成果としてお伝えしていていました。しかし、デベロッパーの担当者のみなさまも「コミュニティづくりを目的にしているのに、本当にイベントの数や参加人数が成果でいいのか?」という疑問があったようで。いまでは、さきほど紹介したような、このエリアに暮らす方の変化がわかるエピソードをお伝えしています。

    実は浜甲子園団地は、駅から徒歩30分以上離れていて、アクセスがすごく良いとは言えない場所なんです。そうした条件でも、豊かなコミュニティが育まれていることがアピールできると、このエリアに魅力を感じ、この街に暮らしたいという方が増えます。そうしたコミュニティの豊かさは、数値だけではなく、先ほどご紹介したようなエピソードにあらわれるということを、デベロッパーのみなさまも理解してくださるようになっています。

    –なるほど。では、関西支社の今後の展望を教えてください。

    奥河:これまで説明したような「拠点常駐型」の活動に加えて、「地域回遊型」の案件にも力を入れていきたいと考えています。ありがたいことに、すでに関西でも地域回遊型のネイバーフッドデザインへのニーズが増えてきています。なので、これまでHITOTOWAが培ってきたノウハウを、さまざまな街で活かしていきたいです。

    マンションの自治コミュニティ組織に伴走する「ネイバーフッドデザイン」

    –さて、西郷さんはどのような取り組みをしているのでしょう。

    西郷:さまざまなエリアの「ネイバーフッドデザイン」に関わっているのですが、たとえば”子育て応援賃貸住宅”がコンセプトの神奈川県川崎市の賃貸マンション「フロール新川崎」(貸主:神奈川県住宅供給公社)のネイバーフッドデザインに、2017年の入居開始時から取り組んでいます。

    HITOTOWAでは、入居者が中心となって運営している自治コミュニティ組織の伴走支援に加えて、子育てクラブの立ち上げや入居者向けの懇親会、防災活動等をサポートしています。現在は入居者の方々自身が、夏には中庭で子ども向けのプールイベント、秋から冬にはハロウィン、クリスマス会などを自ら企画・運営をするようになっています。しがらみでもない、孤独でもない、心地いいつながりが増えているプロジェクトです。


    フロール新川崎では、子育てを応援しあうコミュニティが生まれている。

    –スタートから2年半で、心地よいつながりが生まれてきているのですね。

    西郷:そうなんです。初年度は、交流のきっかけづくりのためにHITOTOWA主導で住民の方々が交流する機会を開催しつつ、関係者と協力して自治コミュニティ組織を立ち上げました。2年目は、自治コミュニティ組織の伴走支援に力を入れ、コミュニティづくりの主役を住民のみなさんに移すように支援してきました。今は3年目なのですが、住民さんが自ら活動してくださるようになり、自治コミュニティ組織も順調に活動しています。

    –写真を見ると、とても楽しそうなのが伝わってきますね。「フロール新川崎」の「ネイバーフッドデザイン」は、どういった背景から取り組みが始まったのでしょう?

    西郷:顧客パートナーとなる神奈川県住宅供給公社、住民のみなさん、それぞれのニーズがありました。神奈川県住宅供給公社としては、もともとは郊外型の団地を中心にコミュニティを大事にしてきましたが、新築マンションをつくる際に、住民同士のコミュニティをつくることで、ハードだけではなくソフト面で価値を上げることができないか、という議論があり、「ネイバーフッドデザイン」のノウハウがあるHITOTOWAにお声がけいただきました。

    住民のみなさんにも、マンションに入居する際には楽しみと同時に、「このマンションには一体どういう方々が住んでるんだろう?」「ご近所との関係性がうまくいくだろうか?」という不安もあります。しかし、入居当初から住民のみなさんとの交流のきっかけがあると、だんだん顔見知りができて不安が薄れ、「こういう人たちが住んでるんだ」という安心感や、助け合いにつながるんです。

    –実際にどのような成果が生まれているのでしょう?

    西郷:たとえば、一般的には密室のような家で母と子だけがずっと過ごす育児、いわゆる「カプセル育児」や「孤育て(孤独な子育て)」といったことが問題となっています。家庭の中だけで育児を完結させなければいけない状態は負担が大きく、子どもにとっても親にとっても、あまり良いことではありません。とくに初めて住む街で、周囲に知り合いや頼れる人がいない環境ではそうなってしまいがちです。

    しかし、ここでは何人かのお母さんが、交流イベントでつながりができたことがきっかけで「雨の日に集まろうよ!」という声をあげて、集会室を開放して交流するようになり、そこに参加した方が別のお母さんを誘い、子育てサークルが生まれていったんです。雨の日や暑い日には、マンションにある集会室でお母さん同士もしゃべれるし、子ども同士も遊べる、という場になっています。また、夏には中庭にプールを出して子どもたちが水遊びできる場をつくり、10月にはハロウィン、12月にはクリスマス会を開催するようになったりと、活動を重ねるうちに、入居1年で30世帯以上、2年目には約50世帯と、次第に参加者も増えていっています。現在では、サークルから自治コミュニティ組織公式のクラブになっています。

    こうした活動を支えているのが、マンションの自治コミュニティ組織です。自治コミュニティ組織が認めたクラブであれば、集会室が無料で使えたり、予算面でのサポートを受けることができます。HITOTOWAは、自治コミュニティ組織の運営やクラブの立ち上げを伴走してきました。

    –自治コミュニティ組織の運営費はどうしているのでしょう?

    西郷:それがとてもユニークなんです。本来は貸主である神奈川県住宅供給公社の収入になる自転車置き場の使用料を、その回収を自治コミュニティ組織が担うという条件で、自治コミュニティ組織の財源として使えることになっています。しかし、30代や40代で仕事や子育てに忙しい世帯が多いマンションなので、なかなか自転車置き場の管理という業務を担うのはむずかしい。それでも、子育て支援、防災減災など、助け合いの関係性を育むために自治コミュニティ組織は必要だと考えていたので、「自治コミュニティ組織として、自転車置き場の管理をしていきませんか?」という投げかけを、自治組織の立ち上げのタイミングでさせていただき、自治組織としてやるという判断をしてくださいました。

    先日、ちょうど自治コミュニティ組織の役員が入れ替わるタイミングの総会で、初代の役員さんが「なぜ僕たちが自転車置き場の集金をやってきたのか」ということを、他の住民さん向けに話してくださったんです。「自転車置き場の使用料は、本来貸主の収入として入るべきものですが、公社とHITOTOWAが協議をしてくれたなかで、委員会で集金するのであれば、子育て応援のためのコミュニティ活動に使っていいと言ってくれました。他の選択肢もあった中で役員会としてそれを担うこと選択をしてやってきました。業務の負担はありますが、マンション全体や子育て支援のためであることを覚えておいていただけたらと思っています」と語っていらっしゃって。活動の意味を住民さん自身がよく理解して、自分ごととしてここまで取り組んでくださったんだなと実感し、とても感動しました。

    –自治コミュニティ組織が自走しはじめているのですね。

    西郷:HITOTOWAは、調査や企画を通してコミュニティ形成に関わりながら、あくまでも住民自身がコミュニティを育てていくことを大事にしています。最終的にはそのエリアが、われわれがいなくても自走できるようになる状態になることを、この事例では実現できつつあります。

    –顧客パートナーとはどのような関係を?

    西郷:このプロジェクトでは、神奈川県住宅供給公社がまさに「パートナー」というような立ち位置で、「果たしてこの取り組みが、住民のみなさんにとって本当にいいことなのか」を、一緒に考えてくださっています。コミュニティづくりはすぐに成果が出るものでもないので、顧客パートナーとなる企業も評価が難しいこともあると思います。しかし、やはり住民さんたちのつながりができてくる場面に触れたり、こういう出来事があったという情報をきちんと共有させていただくことを通して、「コミュニティ形成は意味があるんだな」ということを、とても理解してくださっているように思います。

    –なるほど。では最後に、「ネイバーフッドデザイン」事業の今後の展望があれば教えてください。

    西郷:HITOTOWAの新しい経営理念が「創造性を発揮して新基準をつくる」というものがあるのですが、ネイバーフッドデザイン事業では2つの点で、エリアマネジメント業界の新基準を創っていきたいと考えています。

    まずひとつ目が、コミュニティスペースの企画運営。最近ではコミュニティスペースの企画運営をする案件が多いのですが、そうしたコミュニティスペースを、稼ぎながらスペースを運営していく仕組みを作ったり、住民や地域団体と協働して運営していく方法も追求していきたいです。神奈川県住宅供給公社と進めている、2020年2月に入居開始予定の賃貸マンション「フロール元住吉」にできる「となりの.」の取り組みがまさにそれにあたります。

    ふたつ目が、住宅と商業施設の複合型のエリアマネジメント。最近では、賑わいづくりや防災減災、子育て支援などへのメリットがあることから、住宅と商業施設が合わさったエリアへのニーズが高まっています。これまで、住宅地と商業施設のエリアマネジメントは、安心安全や安定的な人の暮らしを求める住宅地とにぎわいや多くの人々の往来を求める商業施設と相反する部分があります。私たちは、ネイバーフッドデザインにて、それを両立するモデルを作りたいと考えています。

    広がりをみせるネイバーフッドデザイン

    今回ご紹介した事例以外にも、HITOTOWAはさまざまなエリアでネイバーフッドデザインに取り組んでいます。あるエリアで得た知見を、また別のエリアで活かし、ともに助け合える街を増やしていく……HITOTOWAの挑戦は、まだ始まったばかりです。

    後編では「ソーシャルフットボール」「CSR/CSVコンサルティング」の2つの事業と、「Community Crossing Japan」「HITOTOWAこども総研」の2つのプロジェクトについて話を聞きます。

    後編に続く)

    キーワード

    他のインタビューを読む

    HITOTOWA

    HITOTOWA

    人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

    http://hitotowa.jp/

    人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

    HITOTOWA

    この記事を読んだ方におすすめの記事

    Interview

    HITOTOWAの声

    Interview一覧へ