2022-03-24
2022-03-24
こんにちは。HITOTOWA広報チームです。
前回は、「東京都住生活シンポジウム2021」より、【代表・荒の講演まとめ編】をお送りしました。今回はその続編として、シンポジウム後半の【パネルディスカッション編】をお届けします。
パネルディスカッションでは東京大学の大月敏雄教授をモデレーターに、株式会社リクルートよりSUUMO編集長の池本洋一氏、関東学院大学准教授の山口温氏、そしてHITOTOWA代表・荒の全4名が、「これからの東京の住まいとは」についてSDGsの視点を踏まえディスカッションしました。
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「東京都住生活シンポジウム2021」
日 時:令和4年2月1日(火) 14:00〜16:30 @オンライン
テーマ:「SDGsの目線から考えるこれからの東京の住まいとは」
1.趣旨説明
東京大学教授 大月敏雄氏
2.講演
「コロナ禍を経て見えた住みやすい街、住みやすい家とは?」/(株)リクルート SUUMO編集長 池本洋一氏
「環境に優しい住まいと健康な暮らし」/関東学院大学准教授 山口温氏
「ネイバーフッドデザインによる居場所づくり」/ HITOTOWA INC. 代表取締役 荒昌史氏
3.パネルディスカッション
モデレーター:大月敏雄氏
パネリスト :池本洋一氏、山口温氏、荒昌史氏
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パネルディスカッションに際し、まずは前半の流れを簡単に振り返ります。
冒頭の趣旨説明では、東京大学の大月教授が、これまでの日本の住宅政策について解説。「戦後の住宅不足により、最初はいかに住宅を供給していくかから始まった住宅問題は、居住環境、超高齢化、最近ではコロナ禍など諸課題を巻き込んで変化しながら、住生活の政策上の課題になっている。これらの状況を踏まえて住生活の基本計画が策定されている」状況を説明しました。
さらに現在の住生活基本計画とSDGsの関係にも言及。SDGsの17の目標のうち14は住宅と関わりが深いことに触れ、「住宅をめぐる社会環境、居住環境、地球環境をどう考えていくかが住宅の話題の最先端」とし、それについて登壇者それぞれの専門分野から語るのが当シンポジウムの主旨と紹介しました。
講演のトップバッターは株式会社リクルート、SUUMO編集長の池本氏。「コロナ禍を経て見えた住みやすい街、住みやすい家とは?」と題し、独自の調査による最新データを踏まえての考察がありました。
地域により差はありますが、「住み続けたいまち」ではやはり人々の交流や、住民の自発性などがポイントになっているとのこと。またこれからの住まいの「ニューノーマル」になりそうなものとしては、通信環境、通風・換気、遮音性、省エネ性能など住宅の基本的な快適性や、住宅からの眺望、そして収納などがあげられました。
続いて関東学院大学准教授の山口氏より、「環境に優しい住まいと健康な暮らし」のご講演。住宅の性能がどのように健康に影響を及ぼしているか、また建築的なアイデアによっていかに身の回りの環境を省エネルギー、脱炭素に向けていくことができるかについてお話がありました。
その後半では、学生と一緒に取り組んだ2030年を見据えた住宅提案の事例も紹介。「新しい庭付き一戸建て」として屋上菜園に太陽光パネルを活用した雨水散水システムで水やりをしたり、リビング横に縁側として熱的緩衝空間を設けたりするなど、新たな「普通の家」について考察がありました。
最後にHITOTOWA代表の荒が登壇し、「ネイバーフッドデザインによる居場所づくり」について講演しました(荒の講演概要はこちらから)。
以上を踏まえ、いよいよ全登壇者によるパネルディスカッションが始まります。
まずは大月教授より、SUUMO編集長 池本氏への質問からスタート。
「池本さんから、コロナ禍で住まいやまちの選び方が変わりつつあるお話を伺った。今後テレワークがさらに浸透し、ノマドワーカーが増えていったとき、東京がより楽しく、住まいの選択肢を増やしていくありようをどうお考えでしょうか?」
池本氏は、コロナ禍で2拠点居住のニーズが増えていることにも触れ、「今まで暮らしてみたかったけれど暮らせなかったまちで、試しに暮らす選択肢が広まり、『何らかの個性があるまち』が選ばれやすくなってきている」とコメント。
また再開発のなかで、まちの顔が均一化してきたことにも言及し、「長い期間で見たら、昔ながらの「まちの顔」を残しているほうが貴重な時代もやってくるのでは。まちづくりをするうえでは変えるべきことと、変えずに熟成させていくものを、地域の方々とともに考えるべきタイミングだと思う」と語りました。
これを受けて大月氏は、「ノマドワーカーが増えて住まいの選択肢を増やすためには、東京が1個の顔ではだめで、地域の「顔」を生かしてまちの個性を打ち出していくことが必要。東京はいろいろな歴史もあるので、それらを活かしながら、このまちに住んでみたい、と思えるようなまちづくりが大事」と応対。
池本氏も「ぜひ100人100通りのまちが、東京に生まれるといいなと思います」と続けました。
続いて話は、「脱炭素」の取り組みへ。
大月氏は山口氏の講演内容にも触れ、「一般の人が、すでに建っている住宅で『脱炭素』に貢献できる知恵にはどんなものがあるでしょうか?」と投げかけます。
山口氏は、「日本の伝統的なやり方が一番効くと思う。夏は日射遮蔽、冬は日射取得。夏は屋根に散水することで、室内側も温度が下がる。また発泡材などの上に床を置いて床の断熱なども考えられるのではないかと思う」とコメント。
住まいながら工夫する視点では、部位改修や部分改修などの形もあること、またカーテンをひくだけで効果があるので、DIYなど含め、さまざまな工夫を重ねていくことが大事だと述べました。
また、講演で紹介した事例でも学生3人が住人となり、住みながら住宅を改修していることに言及。「近隣のお子さんが来たり、町内会長がお話ししてくれたりもしているので、改修の知恵などを共有する場は十分つくっていけるのではないか」
脱炭素型の住まいづくりが個々の住まいだけでなく、まちづくりの取り組みにも波及していく可能性についても話題になりました。
そして話題は、まちづくりへ。
大月教授からはネイバーフッドデザインの取り組みについて「孤立大国の日本において、人々が自分の手がかりを発見しながら地域の機会に参加して居場所へつながる、重要なプロセスを紡ぎ出していると思う」との声をいただきました。
一方、「すでに自治会、町内会など地縁団体があるなかで、外部の人がそこに入らないといけない、という認識でよいのでしょうか?」と質問も。
これに対して荒は「既存の自治会・町内会もすばらしい活動をしているところは多くあるが、総論としてはなかなか新しい取り組みまで手が回っていないのも実状。若い世代へのアプローチなど、私たちがまちに関わることを歓迎してくれる地縁団体も多い」と説明。自治会や町内会はもちろん、役職のない方々も含め、まちの方々に丁寧にヒアリングし、協働しながら展開していくことが大切とお話ししました。
また大月氏は、「山口先生が地域の戸建てで行っている断熱改修の検討のような取り組みも、荒さんの取り組みと合わせてワークショップのような形でやることは考えられるんでしょうか?」と問いかけが。
これを受けて荒は、もともと環境問題への関心が高いこと、またネイバーフッドデザインとしても畑を皆で耕したり、地産地消を応援する取り組みを行ったりしていることをお伝え。広く脱炭素につながる取り組みを行っていきたいと語りました。
さらに山口先生も、「学生にとって、自分の学んでいる専門性が社会にどう生かせるかを認識するのはとても価値のあること」とし、ワークショップのような形で、学生が情報をシェアするような場がつくれれば双方にとってよいと思う、と話しました。
パネルディスカッションの後半では、2つの共通質問が投げかけられました。
1つめの質問は、「コロナ禍で住まいやまちの何が一番変化し、またこれから何を変えなければならないのか?」。各登壇者がそれぞれの考えを述べました。
▼ 大月氏:新たな孤立の形に対応できる、住宅・居住環境づくりを
「コロナは災害のひとつ。災害には2つの側面があり、1つは『災害は平等に起きない』。自然災害を見ても、高齢者ばかりの村や施設等で被害が大きいことがある。コロナ禍でも、薄氷の上を薄氷と知らず生きている人が急に放り出されるようなことが起きているのでは。もう1つは『災害はこれまでの変化を加速する』。リモート授業やリモートワークはコロナ禍で急速に普及した。
こうした変化の中で、新たな孤立の形が出ている。これを住宅からどう変えるか。たとえば子どもが公園で遊ぶ姿を見るだけで幸せな気分になる年配者は多く、窓の開け方ひとつで得られる眺望は変わる。そうした新たなコミュニケーションの視点を踏まえた住まい、居住環境づくりが今後より発展していくべきではないか」
▼ 池本氏:自分がどういう場所に身を置きたいかを考え、口に出せる社会へ
「本来、地震や水害など大災害の際、日本人は連帯が生まれやすいと思う。ただコロナ禍は連帯を生むようで、孤立を促進してしまった。ただ僕自身は、自分が孤独だとか寂しいと思ったら、思い切って行動して場所を変えてみればよいのではとも思う。
コロナ禍で就職した知人に、生まれ育ったまちに移り住み、会社からもテレワークの環境を自ら勝ち取った方がいる。自分がどういう場所に身をおいたら心地よいか。どう働き、どう暮らし、どう生きたいか。それをもっと言ってみようという気運が、コロナ禍で高まっているように感じている」
「在宅時間が増えてエネルギー消費も増加し、住宅への関心が高まった。在宅ワークをするとき、集中できる部屋がほしい人もいれば、リビングで仕事ができる人もいる。例えば「子どもの声がする」など、相手の事情にもう少し寛容であれば、住まいと仕事の距離が近づくこともあるのでは。仕事場でも、家庭でも、考え方を寛容にしていける社会がいいと思う。
学生も、ひとり暮らしでオンライン授業だけだと、人との関わりが遮断されてしまう。オンラインだと五感のうち聴覚と視覚しか使わない。その状況はよくないのではとこの2年間で感じている」
▼ 荒:オンラインとリアルを組み合わせ、コミュニケーションの最適化を探る
「一番変わったと思うのはオンライン活用。ネイバーフッドデザインやコミュニティデザインの世界では、リアルで会うことが前提で、そこに価値があるという見方が強かった。半分は正しいと思うが、半分は非効率なこともあったはず。そこへオンラインが入り、コミュニケーションが円滑化した部分もあると思う。
一方で、リアルでないと話せないこともやはりあると感じた。特に初対面の人どうしが関係性を構築する局面はやはりリアルが強い。今後さらに変わっていくとよいと思うのは、オンラインとリアルの関係性。リアルの代替手段としてのオンラインではなく、オンラインとリアルをどう組み合わせ、最適な方法でコミュニケーションをとっていくか。これを地域のなかでももっと考えていきたい」
最後に大月氏より、「コロナ禍後の、住まいのキーワードは?」との質問が。これについて、それぞれの登壇者から下記のようなキーワードがあがりました。
「病気や失業、シングルペアレント、育児、ひとり暮らしなど、世の中には想像以上にいろいろな困り方をしている人が大勢いる。そして明日は我が身である。人がどういう属性を身に帯びても、その人なりにその地域や住まいに住み続けられる状態をどうつくっていくか、そのための思考改革をしていくことが非常に重要ではないか」
「人との関係が一番重要なんだということに、コロナ禍を経て皆が気づいてきているのでは。人と人のつながりづくりに少し時間を向けていく。もうひとつは、自分の身を快適な場所に置くことを我慢せず、時間やお金をそこに投資していくこと。これらは心身の健康につながり、ひいては人に優しくできる原点になると思う」
「今後住まいのなかでそれぞれが何に価値を見出すか。池本さんの『健康につながる』に関しては、住宅の環境性能を上げることで、意識せずとも快適で健康によい住宅に住まうこともできる。また、自分が何かに貢献できていると認識するのも、自分の存在意義を確認するうえで大事。たとえば環境性能の高い住宅を選択することが、地球環境に貢献することにもつながる」
「居場所づくりもネイバーフッドデザインも、シンプルに言えば『家の近くに友達がいる』状態をつくること。近隣に友だちがいれば日常的に悩み相談もしやすく、楽しい会話もできて、自然と笑顔になる。そんな暮らしが本当の豊かさでは。自分が笑顔になったり、誰かを笑顔にしたりする場所や機会をつくる、それを皆で重ね合わせていくことが重要ではないか」
これらの回答を受け、大月教授は「我々はこのコロナ禍の2年間で、住まいについてかなり哲学的な部分を模索しているのでは。何のために生きているのか、なぜここに住んでいるのか。そんなことを考えさせられる2年だった」とコメント。
「今後コロナが収まっても、この哲学は忘れてはいけないように思う。孤立大国日本では、自殺者も多い。今日我々が考えたことは今後数十年、東京の住まいを考えていくうえで重要になってくるのではないか」と結びました。
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以上、2回にわたって「東京都住生活シンポジウム2021〜SDGsの目線から考えるこれからの東京の住まいとは」の様子をお届けしました。
SDGsが提唱されるなか、また近年のコロナ禍を経て、人々の住まいやまちを見つめる視線が大きな過渡期にあるのは確かだと感じます。
HITOTOWAでも引き続き、行政や各地縁組織、まちにかかわる一人ひとりと協働しながら、よりよい暮らしづくりに貢献していきます。
(HITOTOWA INC. 広報チーム)
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