2023-11-02

持続的な運営のカギは、役割を“固定”しないこと─まちのね浜甲子園、6年間の伴走を終えて【社内対談・後編】

interviewee:

HITOTOWAで6年間伴走を続けてきた浜甲子園団地(兵庫県西宮市)のエリアマネジメント組織、一般社団法人まちのね浜甲子園が、2023年6月より地域住民に主体を引き継ぎ、HITOTOWAの事務局運営が一区切りを迎えました。これを機に、常駐事務局を運営してきた奥河洋介、青山めぐみ、宮本好の3名で、社内対談を行いました。本記事は【後編】です。ぜひ前編とあわせてご覧ください。

▼ 後編では、“持続性”を高めた組織運営や、行政・他の地縁組織等との関係性について掘り下げます! 最後までお見逃しなく。

  

 目次 

 

 

店長不在の経営に学ぶ、やるべきことのミニマイズ

青山:組織づくりや運営体制について掘り下げると、まちのね浜甲子園(以下、まちのね)で常に意識してきたのは「持続性」や「循環」だったよね。

たとえば既存自治会のようにピラミッド型の組織で、自治役員がいて、班分けされた住戸があって……ではない柔軟な組織体を目指したりとか。私たちなりに既存の自治組織のあり方から学んで、改変してきた創意工夫は多くあったと思う。

だから、もし仮にまちのねで今の誰かが辞める状況になっても、変化を許容しながら何らかの形で続いてほしいし、そういう柔軟で可変な組織のあり方が、担い手不足と言われる他の地域の課題にもヒントになったらいいなと思っているよ。

宮本:柔軟な組織体系といえば、役割を固定化させなかったのはすごくよかったと思っていて。みんなで一緒に考える、みんなで一緒に企画するプロセスを丁寧に踏めたのは、入社直後にとても印象的でした。そのプロセスが、課題に対してそれぞれが真摯に向き合う、まちのねスタッフのぶれない姿勢をつくってきたと感じます。

私が産休・育休取得の話をしたときも、皆がいろいろ考えて、柔軟に業務を分担してくれて。役割を固定化させず、インターンとして関わってくれる近隣大学生や、頼れる地域住民の方にヘルプを出すなど「できる人ができることを無理なく続ける、助け合える距離感内での担い手の循環」は、持続するために必要だと本当に思います。

役割を固定しないといえば、コミュニティカフェOSAMPO BASEで、店長をつくらなかったのも象徴的ですよね。

青山:そうだね、OSAMPO BASEであえて店長不在の経営にチャレンジしたのも、他の地域での再現性を意識したからというのはあった。店長不在の経営体制に象徴される「やるべきことのミニマイズ」って、地縁組織全体に必要な考えだと思うから。最低限の仕事以外は、自由であるべきというか。

それこそ旧地縁組織で多いピラミッド状の組織は、トップがみんなに指示を出して他の人が従うスタイルだけど、OSAMPO BASEではそれぞれが得意なこと、できることを持ち寄るスタイルをとっている。仕込みが好きな人、発信が得意な人、未知の料理にチャレンジする人、お客さんとの会話がうまい人。それぞれが得意を持ち寄って、少しずつ「経営」している状態ともいえる。

店長というポジションが不在だからこそ、一人ひとりが当事者としての自覚を持ち、その責任のなかで、自分の得意を活かして店や組織をよくしていく。これって店舗に限らず、どこの地縁組織でも大事なあり方だと思うよ。まあ、現実にはうまくいかないことも多々あるから全部が全部サクセスストーリーとはならないけれど、確実に言えることは、そういう試行錯誤がないとよくならない、ということですかね。

コアスタッフは中間支援に集中すべし

奥河:「できることを持ち寄る」の言い方を変えると、OSAMPO BASEに限らず、まちのねのすべての活動において「参加/消費をゴールにしない」ことは常に大切にしてきたし、別の地域での再現可能性を考える上でも大事なポイントだと思う。

誰かに声をかける、手伝う、企画する。レベルはさまざまだけど、参加者には、プラスαの役割を一人ひとりに持ってもらう。企画側、参加側を分けない。そのためにあらゆる入り口を設けて、個別に会話してきたことで、だんだん、「全員が運営の一員になる」感覚も醸成されてきたというか。

まちのねスタッフは、「こんにちは」と初めて挨拶した人に対して、常に“その人はどういう関わり方をしてもらえるかな?”と考えながら会話をするよね。


周辺の保育所&幼稚園に子を通わせている保護者からリアルな話が聞ける、人気のイベント。参加者が、翌年には先輩ゲストとして情報提供側にまわるなど、ここでも「循環」や「運営への参加」が生まれている

青山:一方で、私たち事務局側は直接的に企画して回すのではなく、「あくまでも中間支援的な立ち位置にとどまること」も大事にしてきたよね。

担い手誘致が失敗する要因の多くは、“既存の行事をやり続けることにフォーカスが当たるから”。無理なく持続する組織を目指すなら、コアスタッフは企画を起こすのではなく「何かやりたい(企画を起こしたい)人を見つけてくる活動」をずっと続けるべきじゃないかなと。

宮本:私も、「まちのねが主役にならない」ことは常に意識してきました。あくまでも参加者や活動者の方々が、楽しんだり、そこでの出会いが生活を楽しくするための活動。
それが中間支援的立ち位置ということにつながるだろうし、「場のコーディネートをする」役割は、まちのねスタッフの姿勢としても強いと感じますね。

青山:そうやって中間支援の立ち位置にいるスタッフや、実行を担う人を、ちゃんと雇用できる財源をつくることも、同じくらい大切なことよね。そのためにも「小さく稼ぐ」仕組みが不可欠だと思う。すべてがボランティアで疲弊する、は地縁組織の“あるある”だから、給料を払える土台をつくるのはすごく大事だよね。

最初からとにかく協働が“正解”とは限らない?─行政との距離感

青山:組織づくりに関してさらに掘り下げると、これは偶然だけど、最初の座組に西宮市が入っていなかったことは大きかったと思う。

最初から入るのではなく、活動の成果を見てもらったうえで、6年間の伴走後には、西宮市からも「誰もが気軽に集まれる交流拠点事業の事業者」として認めてもらい、結果的に補助金も出してもらえる形になった。この順序がよかった。

初めはまちのねが自治会のように捉えられて、「既存の枠組みに入ってくれませんか」と言われたんだよね。でもそのルートではなく、独自にまちのねピクニックという屋外マルシェや、地域の保育園・小学校情報の発信などを行い、住民の方々からも一定の評価を得ることで、徐々に“新たな自治の形”として認めていってもらえた。

奥河:そう、市の関与がなかったからこそやれたことはいっぱいあるよね。「既存の仕組みと一緒にやる」はいったん置いておいて、まず自分たちで実行して、評価を得て、許されてきた側面が大きい。最初はどうしても、“わけのわからないよそ者が勝手にやっている”と様子見されているのは感じていたから。

一般的に、最初から実績あるものと、後から新たに始めるものが協働しようとしても、結局既存のものの色に染まっていってしまうことは多くあると思う。だから新しい風土の組織をつくりたいなら、ある程度大きくなるまでは自分たちで独自に進めて、“結果的共存”を目指すのがいいんじゃないかな。

そのためにはきちんと実績を出して、認めざるを得ない空気感を醸成するかがカギだと思う。そう考えると、「なんでもかんでも一緒に協働」ではないのかもしれない。

青山:本当にそうだよね。行政の協力がないとなし得ないことはあるから、“協働が不要”という話ではもちろんなくて。ただ、まちのねにおいては、行政が「最初は不在」の座組かつ、民間のデベロッパーが中心となってやらせてくれたからこそなし得たことは多いし、感謝しているところ。

奥河:従来の枠組みじゃない人たちを、従来の仕組みのどこにあてはめるかという理解の仕方には無理があって。「勝手にやる得体の知れない人たち」と見られるスタートを受け入れて、結果と口コミでみせていく心構えは、ある程度認知されるためには、どうしても必要なのかもしれない、と思うよ。

「地域に残すべき“文化”」は何か?─既存の地縁組織との距離感

青山:まちを取り巻く関係者との距離感といえば、このみんは数年前に一度、ある地縁組織と衝突を経験したよね。あの対立は不可避だったのか。聞いてみたい。

宮本:ありましたね。コロナ禍に、私がまちのねを代表して、ある地縁組織に交流イベントの企画説明をしに行ったんです。そしたらまず「組織のトップが来ないのか」に始まり、その情勢にイベントをやることに対して、「地域のためって、住んで浅い人らが言うな」「このエリアは高齢者が多いのに、高齢者の命も考えろ」と、強めの言葉を投げられて、ぼろぼろに泣いて帰った……という話なんですけど。

そのときは、その地域に暮らす時間の長さが違うことで、なぜこれほど目の敵にされなくてはいけないのかと感じましたね。新しく住み始めた方々が「こんな情勢のなかでもやっぱり周りと一緒に何かしたい」のも、その地縁組織の方の「俺らの命大事やろ」も、本来は同じ土俵のうえで落ち着いて話し合われるべきことなのに、と。

青山:もともと我々も、既存の組織にリスペクトを持ちつつ関わることは意識していたはず。だから既存の地縁組織に対して何か「変えたほうがいいですよ」というアプローチはしなかったよね。それでも自分たちの活動を進めるうえで、交わらなければいけないポイントはどうしても出てきて、そういう事態に陥ってしまったと。

宮本:ただあのときは、その後改めておっくん(奥河、当時の事務局長)含めて再訪して、開催場所や内容を変えることでうまく折り合いをつけられて。開催したときには、その地縁組織の方々も様子を見に来てくれて、結局は評価してもらった形になりました。

奥河:でもその話は、このみん(宮本)がたまたま仕事として関わって、前向き思考だからポジティブに振り返れている面があると思う。たとえば「これから事務局をがんばろう」という若い住民さんがいきなりあの状態になったら、二度と地域に関わってくれなくなる可能性が高いし、1人の有能な人材を失ったかもしれない

そう考えると、僕はやっぱり、“悪しき慣習”だと思う。そして「地域に残す文化」としては、そうやって新しい取り組みの芽を摘んだり、ジェンダーや年齢で役割を決めつけたりする関係性とは距離を置く意志を持つべきだと思うんだよね。

まちのね運営では、今後のまちのね全体が「この地域に残す文化/価値としてよいものか」という判断基準は大切にしてきたから。せっかく頑張ろうと動き出した若い個人をつぶすような動きが行われる地域に絶対なってはいけない。

その考え方で意思決定を繰り返してきた結果として、その地縁組織とはいまの距離感──「お互いの意思決定には関与しあわず、一定の距離で必要に応じて連携する」に落ち着いたかなと思う。

宮本:わたしはあの衝突まで、その既存の地縁組織に対して「理解を得なきゃいけない相手」だと勝手に思い込んでいたんですよ。そこに違和感を持つこと自体がなかった。というのも当時は、周りの皆から認められ、評価されないと一般社団法人を存続できない、お金もつくれないと思い込んでいたから。

でも、今は違います。まちのねエリアで皆が求めているのは、「コミュニティが無理のない形で継続すること」や、「コミュニティに安心感や楽しさを感じられること」。暮らす人々のそうした心理的な部分にアプローチできて、そこを守ることが一番大事だと認識できたので、そのための適切な距離感を保てたらと思いますね。

企画の詳細は「現場」に任せてもらう─事業者との距離感

奥河:必ずしもすべてのまちづくりに関わってくるわけではないけれど、まちのねの組織体制ではUR都市機構や管理会社など事業者との関係も大事なポイントだったよね。今回は、「開発事業者」と「一般社団法人の意思決定者」という2つの役割を、事業者にもってもらう特殊な運営形態だったこともあって。

宮本:私が入社直後一番緊張したのも、事業者との定例会議でした(笑)。当時、9社の事業者との会議に出席したんですが、日々の活動報告だけでなく、その活動の目的や住民スタッフ、参加住民の声を丁寧に報告しているのが印象的でしたね。

奥河:「事業者と何を共有して、何を会話するか」でいうと、「おおまかな年間計画と予算は共有するけれど、各企画の詳細は現場に任せてもらう」承認プロセスがつくれたのはよかったなと思っていて。

全体についての関心は持ってもらいつつ、事業者側からの意見で現場が振り回されることもない。現場コーディネートの裁量を理解してもらったうえでの事業者との距離感をつくれたことは大きなポイントだったなと思う。

青山:うんうん。

宮本:本当に。スタート時から企画の詳細を現場に任せてもらえたのはありがたいことでしたよね。

奥河:その信頼関係のためには、年間計画の共有に加えて、企画一個ずつの「報告」や、定量的には示せない効果や住民の行動変化を丁寧に伝えることを大切にしていたな。この距離感が絶妙だったかもしれない。

宮本:確かに。エリア全体の管理組合を巻き込むような企画は事前に相談しましたけど。まちのね主催で何かを開催するようなときは、現場のスタッフさんが考えるクオリティを信頼してもらっていた実感があります。

奥河:そう。たとえば「開催一ヶ月前までに企画の詳細を必ず説明せねばならない」状況はなかったよね。それによって小さな失敗がやりやすくなって、トライ&エラーをたくさん重ねられたし、現場でのミニ企画をたくさん実施できた

このトライ&エラーの積み重ねは、一回ずつ企画書みせてコメントもらって承認を得て……というフローだと難しい。事務局のポジションを有効に使えたかもしれないね。

青山:そうだね。常駐だからこそ任せてもらえたのは間違いないと思う。

家をつくる行為の先にある「いとなみ」が住みたいまちをつくる

宮本:そろそろ対談も終盤ですが、これを読んでくれている方々に改めて伝えたいことはありますか?

青山:ここ数年、住宅地におけるエリアマネジメントをやろうとしている会社は増えてきていると感じていて。企画段階でエリアマネジメントの要素が公募要件になっていることも多く、そのメンバーとして私たちにお声がけいただくこともある。

そうした場で話すなかで、事業者の方々から、「まちのねみたいな非営利の組織が財源を稼ぐことが信じられない/よしと思っていなかった」と聞くことがあって。小さく稼ぐ仕組みをつくって、地域への貢献に再投資をする循環を生む、お金の流れを目指すこと自体、目からウロコという事業者の方が結構おられる

理想的には、その地に住まいながら事業をつくり、楽しみを通じてまちを盛り上げていくという「いとなみ」が行われることで、コミュニティが形成され、そのエリアに住みたいと思う人が増えていく。そんな循環を感じてもらえたらすごくいいなと思っているよ。

宮本:確かに、住まう人としての視点を体験することで、事業者側の開発の見え方ががらりと変わることはありそうです。

私も、「コミュニティって大事だよね」との認識は高まりつつある一方で、事業者側には「コミュニティに関わりたい住民が本当にいるのか」「本当に集まってくれるのか?」と疑問に思っている方が少なからずいると感じていて。

それに対してはやっぱり、今回の対談でも出た、関わり方の間口をどれだけ持てるか、関わり方をどこまで許容するか次第かなと思うんです。必ずしも「毎回参加必須で大人数で集まってやることがコミュニティとは限らないよ」と伝えたいですね。

参加者でいるのか、企画側になるのか、ただ応援する人なのか。コミュニティに関わる人にはいろんな立ち位置の人がいていい。そして、「関わるための間口がどれだけ持てるか」に一緒にチャレンジしていける立場がHITOTOWAかなと思います。

奥河:「引っ越してきてよかったね」「あのエリアのイメージ変わったよね」という周辺住民の方の感覚って、なかなか定量的に示しづらい。でも、まちのねでの6年間の伴走を振り返ると、そうしたエリアの空気感は、ちゃんとアクションを起こしていくと確実に変わるんだ、と実感できたプロジェクトだったなと思う。

「日常的にずっと続いていて、安心感がある」「楽しめる仲間が増えた」「このエリアに引っ越してよかった」。そんな声を多くの人から聞けることが嬉しいし、そういう副次的な広がりこそが価値だと思っていて。

そういう意味では、我々がやってきたことはその「きっかけ」でしかなかったし、これからまちのねを運営していく人たちがさらに、どう地域の声を聞き、自分たちもやりたいことをやりながら、このまちをよくしていくかがとても楽しみ。そしてこうした文化が他のまちにも広がることを願いつつ、我々もその一助になれたらと思います。
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前・後編に渡る社内対談、最後までご覧いただきありがとうございました!

3人の対話が、これから新たなエリアマネジメントに取り組む方や、既存の地縁組織で課題に向き合う方にとって、何かのヒントになればとても嬉しいです。

そして「現場で起こる価値の可視化」や、「関わる間口を広げる」「持続的な地縁組織づくり」などで何かありましたら、ぜひ私たちHITOTOWAにご相談ください。

2023年11月より、14期目を迎えたHITOTOWA.INC. これからもHITOTOWAでは、「会いたい人がいる。そんなまちが好き。」をモットーに、誰もが安心して楽しく暮らせるまちを目指して、人とまちに向き合い続けます。

◆ 一般社団法人まちのね浜甲子園 公式ホームページ
◆ 前編:“現場でわき起こる価値”を可視化し「小さく稼ぐ」─まちのね浜甲子園、6年間の伴走を終えて【社内対談・前編】
◆ 後編:持続的な運営のカギは、役割を“固定”しないこと─まちのね浜甲子園、6年間の伴走を終えて【社内対談・後編】

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人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

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