2021-12-24

社会課題にも“にわか”ファンを。【小国士朗氏×津村翔士「参加したくなるソーシャルプロジェクトって?」(前編)】

interviewee:小国士朗氏、津村翔士

HITOTOWA INC.は2021年12月24日で設立11年を迎えます。一年の節目に、事業の現在地とこれからを考えるべく、2つの対談の機会を設けました。

第1弾のゲストは、認知症の方が働くレストラン「注文をまちがえる料理店」や、誰もががん治療研究を応援できるプロジェクト「deleteC」など、さまざまな企画の仕掛け人として知られる小国士朗さん。HITOTOWA INC.からは、ソーシャルフットボール事業の執行役員として「スポーツ×防災」の企画運営に奔走する津村翔士が臨みました。

メインテーマは「いろんな人が参加したいと思うソーシャルプロジェクトとは?」。その対話を通して、ソーシャルフットボール事業の今後についても考えていきます。社会課題への入り口づくりを実践してきたふたりならではの視点と、西の出身どうしのリラックスした掛け合いをお楽しみください。

 前編 目次 

 

 
<後編はこちら>

防災を広めたいなら、「防災」から入らない

津村:小国さんとは、HITOTOWAがお手伝いしているJリーグ社会連携プロジェクト「シャレン!」を通して3年前に知り合って。この1年は、シャレン!×Yahoo防災模試の共同企画「ソナエルJapan杯」などで仕事をご一緒してきました。今日は改めてお話できるのを楽しみにしています。まずは自己紹介をお願いしてもいいですか?

小国さん(以下、敬称略):小国です。僕はもともとNHKのディレクターなんですけど、最後の3年ほどは「番組を作らないディレクター」としてやっていました。番組以外でどうやって世の中に情報を届けるか考えるなかで、認知症の方が働くレストランのプロジェクト「注文をまちがえる料理店(※1)」をやったりして。それがめっちゃ面白かったので、そのままNHKを卒業して今はフリーで活動しています。

※1:注文をまちがえる料理店は、認知症の理解促進と「ま、いっか」の気持ちを世界中に広げるために生まれたプロジェクト。接客スタッフは全員が認知症の方々の期間限定レストラン。まちがえることを受け入れ、まちがえることを一緒に楽しもう、がコンセプト。2017年のイベントを機に世界中から注目を集め、国内外で賞を受賞。その後も「とらや」や厚労省、また各地の福祉施設、NPOなどとのコラボなどで開催されている。


写真:森嶋夕貴(D-CORD)

津村:今日は、「いろんな人が参加したいと思うソーシャルプロジェクトとは?」を小国さんと考えてみたくて。僕はソーシャルフットボール事業で、スポーツを通した防災の啓発活動をしているんですけど、「防災」ってみんな「大事だとは思っているけど、なかなか取り組めていないもの」だと思うんですよ。

小国さんの取り組んできた「注文をまちがえる料理店」の「認知症」や、「deleteC」の「がん」も近いと思っていて。誰にでも起こりうる問題だけど、事前にアクションしている人は少ない。そこに小国さんの企画を通していろんな人が参加するのを見てきたので、そういうソーシャルプロジェクトはどうやって生まれるのか?話し合ってみたいです。

小国:そうだね。僕の場合、ひとつは、「テーマから入らない」っていうのがあると思う。

津村:それはほんまそうやなと思います。ソーシャルフットボール事業でやっているサッカー防災®︎ワークショップ「ディフェンス・アクション」も、「防災を学びたいから」じゃなくて、「サッカーが好きだから」「有名な選手が来るから」を理由に参加する人が多いんすよね。で、実際に行ったらゲストと触れ合えて、サッカーもできて。でも結果的に防災を学んで帰るみたいな。

小国:楽しかったな〜!って。

津村:そうそう。だから「入り口を変える」はひとつ重要なポイントやなと。

小国:うん。僕も「がん」とか「認知症」って、自分にほとんど興味がないところから始まっていて。でもそんな僕にも、「何これ?!」って思う瞬間があるんだよね。たとえばNHK時代、グループホームの取材に入っていて、ロケの合間にちょくちょく、認知症の入居者さんがつくる料理をごちそうになっていたことがあるんやけど。

ある日、「今日はハンバーグ」って聞いていたのに、出てきたのは餃子で。え、全然ちゃうやんって。だけど誰も何も言わず、みんなで美味しそうに餃子をぱくぱく食べていてさ。まちがいが起きても、それを受け入れてしまえば、この場にまちがいは存在しない、って空間ができていた。それを見たとき僕は「何これ?!」って思ったわけ。

素人だった自分の「何これ?!」を大事にする

小国:そんなふうに、自分がまったく興味ない分野に行ったときに感じる「何これ?!」は、すごく大事にしていて。社会課題に興味がある人ってごく一部で、99.9%ぐらいは、まあ興味ない。その前提に立つと、自分が素人っていうのはすごくポジティブ。多数派だから。

そんな自分が思わず「何これ?!」ってなる感覚を大事にすると、その外側にいる人も、「何それ?!」って思わず手にとりたくなることがあるんちゃうかな?って。

津村:なるほど。みんなが「何これ?!」って思うポイントを探すことで、いろんな人が興味を持つきっかけにつながる。

小国:そう。でも最初は「みんな」ではなくて、素人の自分が「何これ?!」と思ったものを大事にする。ただ、そう思うのは現状だと僕だけかもしれないから、その状態を変えていくというか。たとえばさっき僕はグループホームで「何これ?!」って思ったわけだけど、ほとんどの人はそもそもグループホームに行く機会がないじゃん。

だからその置き場所を変えたり、名前をつけたりして、みんなにとっても「何これ?!」って手に取りやすい形にする。まちの中に「注文をまちがえる料理店」があったら、みんな「何これ?」って思うかな〜とか。だからヒントは、自分が素人のときに心を動かされた原風景にあるはずなんだよね。

逆に、玄人になりかけているときは危ない。玄人内で話していると、「これは正しい!」って盛り上がるわけ。でも外に出たら、誰もそんなこと思ってないから。

津村:わかります、それ。僕も以前は、防災にまったく興味がなかったから。僕、阪神淡路大震災は神戸で被災しているし、東日本大震災も東京で、熊本地震も福岡で経験しているんです。それでも全然、防災には興味がなくて。だからそのころの自分みたいに、防災に興味わかない人はめっちゃいると思う。

そんな自分がHITOTOWAで防災の仕事をするようになって。被災地を訪れて、被災された方と話すなかで、防災ってやっぱり大事だなと思うようになっていったんですよね。

だからこの前、小国さんに相談したとき、「いや、防災ってみんな興味ないやろ〜」「面倒くさいよね」ってパッと言われて。あ、確かに!って。前は自分もそう思っていたのに、いつのまにか玄人側に行っちゃっていたなと、ハッとさせられました。

小国:うん、うん。

津村:それこそ、ずっと防災に取り組んでいる人は忘れているというか、「なんでやらへんのやろ」で止まっちゃうのかもしれない。だから僕自身、素人感覚を忘れないことはすごく意識しておきたいなと。興味なかった自分だからこそ、伝えられることもあるやろなと思うので。

必要なのは、説明じゃなく「動詞」

小国:「いろんな人が参加したいと思うソーシャルプロジェクト」に話を戻すと、アクションはとても大事だと思う。たとえば「注文をまちがえる料理店」なら、ユーザーは「ご飯を食べに行く」だけでいいのね。「deleteC」なら、「Cを消せばいい」だけ(※2)。

※2:deleteCは、「みんなの力で、がんを治せる病気にする」プロジェクト。企業や団体が自身のブランドロゴや商品、サービスからCancer(がん)の頭文字である「C」の文字を消して、オリジナル商品やサービスを開発・販売。その売上の一部をがん治療研究に寄付。毎年9月には「#deleteC大作戦」として、ユーザーが対象商品からCを消してSNSに投稿・リアクションすることで、その数に応じた金額ががん治療研究に寄付される仕組み。2回目となる2021年は投稿数2万件・リアクション数79万回を超え、のべ5000万人にリーチ。総額688万円ががん治療研究への寄付・啓発費用として集まった。

たとえば「がんを治せる病気にしよう」と言われても、何したらいいの?って止まっちゃうと思うんだよね。だから、動詞が入っているのはすごく大事。ユーザーの立場になったら、「何かしたいけど何していいかわからない人」ってめっちゃ多いと思うから。

だからプロジェクトを設計する側は、ユーザーが「行く」「消す」「食べる」みたいな動詞だけやってくれたら、大事な「Why」には自動的にたどり着くようにしておいたほうがいい。「がんを治せる病気にしましょう!」とか「認知症の人が輝いて働ける世界をつくりましょう!」って言われても、ユーザーは「まあ、そうっすね」って。

津村:反対はないけど、何をしたらいいかわからない。

小国:そう、自分とは関係ない。だからアクション・ファーストで設計することは意識しているかな。

防災にも“にわか”ファン=「防災一年生」を

津村:ソーシャルフットボール事業に関して言うと、防災意識の現状はこんな感じです(下図、左)。防災に対して「意識高い系」の人たちと、「これから系」っていう、防災意識が高くない人たちがいて。で、意識高い人はどんどん自分で知識を深めていく。

だから次の3年はこのピラミッドの下側、防災意識が高くない人たちに対して、防災にアクセスする機会を提供していくことに集中していきたいなと。下の図みたいに、中間層として「防災一年生」が生まれてくると、いざ災害が起きたときに動ける人が増えるんじゃないかと考えているんです。

津村:防災をやっている、やっていないの二元論じゃなく、「詳しくないけど、やり始めました」という人たち。「防災一年生」という言葉があることでそのポジションが言いやすくなって、「俺は三年生ぐらいかな」とかグラデーションが出てくるといいなと思う。それに、たとえば自分や知人の子どもが一年生になったらお祝いするし、嬉しい気持ちになるじゃないですか。防災をすでにやっている人たちも、そういう気持ちで「防災一年生」を見守ってくれるといいなと思います。

こういった取り組みを通して、社会課題に取り組んでる=「意識高い系」と思われる空気も変えていきたい。軽い感じで防災始める人がいてもいいし、むしろそれは奨励していくべきだと思うんです。まさに小国さんがラグビーで言っていた「“にわか”ファン(※3)」が、防災でも生まれていったらいいなあ。

※3:小国さんはラグビーワールドカップ2019に際し、ラグビーをいろいろな角度から盛り上げる三菱地所グループのプロジェクト「丸の内15丁目PROJECT.」の企画立案、実行の伴走を行った。キーワードは「“にわか”を大切にする街づくり」。“にわか”ファンが気軽に立ち寄り、ラグビーの魅力や楽しさを持ち帰れるような入り口を多数デザインした。

小国:そうね。あれは、糸井重里さんにラグビーのプロジェクトの構想を話したとき「ああ、それって“にわか”が一番ってことだよね」という言葉をくれて。それや〜!と。そうか、“にわか”が一番の世界を作ればいいんだ、って。それはどのジャンルでもあるよね。ただ現状でありがちなのは、いわゆる意識の高いコア層が、“にわか”が来ると怒り始めるっていう(笑)。

津村:そうそう。

小国:全然流行らへん店やってて、お客さんがやっと来てくれたのに、「なんやその食べ方は! 帰れ!」って言う頑固オヤジみたいなもんですよ。せっかく来てくれたのに一喝してどうすんねんって。周りのファンも引いていくし。

津村:誰が幸せなん?!みたいな。でも本当、ありますよね。ラグビーや防災に限らず、いろんなジャンルで。

小国:そう。だからそのなかで、「“にわか”が一番の世界を作ろうよ」って合意ができるかどうかは、すごく大事だなと思う。

津村:そうですよね。ラグビーW杯のとき「“にわか”ファン」って言いやすくなったのがめっちゃあって。サッカーも日本代表しか盛り上がらない若者を揶揄する人たちもいたけど、まず興味を持ってもらうことはいいことだから。「“にわか”が一番」の空気感を、防災の分野でも取り入れていきたいなと思います。

あいだに立って、解きほぐす人

小国:特に社会課題やソーシャルアクションと呼ばれる分野は“にわか”を排除しがちなんだよね。入る方も「自分がやっていいのかな?」って怖いし。

津村:わかります。僕も以前は、社会課題って専門家が取り組むことで、安易に近づいちゃいけないような気がしていて。

小国:コア層も、外の人に入って来てほしいと思っているんだけど、いざ来られるとつい怒ってしまったりとか。僕もdeleteCを始めるとき、医療者の方に話に行ったら、「意味をわかっていますか?」って詰められたことがあったよ。素人が「がんを治せる病気に」とかいうなって。でも僕は、その気持ちもわかる。何十年も真剣に命と向き合ってきた先生にしたら、ぽっと出の人間がいきなり何か言い始めたら、そりゃ腹立つよね。

でもそのプロジェクトをちゃんと形にして、C.C.レモンのパッケージから公式にCを消したとき、その先生に言ったら、めちゃめちゃ感動してくれて。「本当にやるんだね、君たち」って。それからすごく応援してくれるようになった。だからある種、こっちの本気も試されているんだよね。

津村:そうですね、覚悟を問われている。

小国:形にする力、継続する力はやっぱり持っていないとだめなんだな、というのはすごく感じた。

津村:そういう内部のコア層と、外にいる一般の橋渡しをする役割はすごい重要やなと思います。僕はネイバーフッドデザイン事業で、マンションのコミュニティづくりにもかかわっているんですけど。そこはもともと住んでいる方と、新しく住む方が混在するところで。

旧住民の方々は地域のお祭りに入って来てほしいと思っているし、新住民の人たちも興味がないわけではない。でも、そこを解きほぐす人がいないとうまくいかないんですよね。よい伝統は守るべきだし、受け継がれてきたものはリスペクトすべきだけど、それが一歩まちがうと排除になってしまう。ってことは、どこでも起こりうるというか。

だからそこを解きほぐす人たちが必要で。今の小国さんの話も、がん研究をやっている先生の気持ちも理解しつつ、一方で素人感覚を失わない役割はすごく大事なのかなと。

小国:そうやね。

津村:だから意識高い系の人ももちろん、いないとだめで。ただ「コア層」と「その他」だけだとしんどくなっちゃうから。その中間層を生み出すためにも、解きほぐしたり、編集したりする人がいて、簡単なアクションを設計していくことが大事なんやろな。

<後編へ続く>
—–

後編では、あるエピソードをきっかけに「何のために防災をやるのか?」という原点に立ち返り、一人ひとりが考えさせられる展開に……。ぜひ最後までご覧ください。

 後編 目次 

  
・「素敵なうっかりさん」をどれだけ、集められるか
・いや、笑ったほうがいいやろ〜!
・「そのとき、あなたは家に戻りますか? 戻りませんか?」
・大事なのはソリューションより、「問い」
・防災は「何のために」やるんやっけ?
・豊かな「問い」を、投げかけていく
<後編はこちら>

プロフィール

小国 士朗 さん
1979年香川県生まれ。2003年、NHKに入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」などドキュメンタリー番組を制作。2013年、心臓病を患い番組ディレクターを断念。社外研修制度を利用し電通で9か月間勤務したのを機に、その後は「番組を作らないディレクター」を宣言して動き始める。2015年に企画した「プロフェッショナル わたしの流儀」アプリは150万ダウンロードを記録。2017年「注文をまちがえる料理店」を企画・実施。2018年にNHKを退局、小国士朗事務所を立ち上げる。

津村 翔士
1983年兵庫県生まれ。HITOTOWA INC.執行役員。防災士。2008年、株式会社リクルートに入社。中小企業向けの新卒・中途採用支援、派遣会社の集客支援営業を行い、MVPも多数受賞。2017年にHITOTOWAに入社し、ソーシャルフットボール事業の責任者として、Jリーグ社会連携プロジェクト(通称:シャレン!)の事務局メンバーを務めながら、サッカー防災®ディフェンス・アクション企画を推進。他にもマンション内のコミュニティづくりなどに従事。2018年より現職。

会場協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)

キーワード

他のインタビューを読む

HITOTOWA

HITOTOWA

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

http://hitotowa.jp/

人と和のために仕事をし、企業や市民とともに、都市の社会環境問題を解決します。 街の活性化も、地域の共助も、心地よく学び合える人と人のつながりから。つくりたいのは、会いたい人がいて、寄りたい場所がある街。そのための企画と仕組みづくり、伴走支援をしています。

HITOTOWA

この記事を読んだ方におすすめの記事

Interview

HITOTOWAの声

Interview一覧へ