2026-09-16
ネイバーフッドデザインが形づくる「市民的公共性」とは。~正解がない地域で、よりよい関係性と文化をどうつくるか~【15周年イベントin神戸 「BE NEIGHBOR」レポート後編】
interviewee:
2026-09-16
interviewee:
15周年イベントin神戸 「BE NEIGHBOR」レポート前編では、関西におけるネイバーフッドデザインの具体的な4エリアのプロジェクト事例から、ハードが完成した後もコミュニティや価値が「経年良化」していく仕組みと、その実践プロセスをレポートしました。住民の主体性を引き出すためには、仕掛け人の「現場での高い解像度」と「小さな機会のデザイン」が不可欠であるという気づきもありました。
後編となる今回は、都市魅力研究の第一人者である山納洋さんをお迎えし、これからの時代に求められる、持続可能なまちづくりのためのアプローチについて問い直します。
全員が一つになることだけを目指すのではなく「緩やかな関係性」の選択肢をどうつくるか。企業、行政、そして地域プレイヤーが、それぞれの立場を超えて「お互いに無理のない、楽しいご近所づきあいの未来」をつくるためのヒントとは。
会場であるURBAN PICNIC内の「WEEKEND」の料理と、自然を身近に感じられる神戸から誕生したクラフトビール「OPEN AIR」を片手に、現場のリアルな葛藤とともにお届けします。
<ゲストスピーカー>山納洋(やまのう・ひろし)さん
大阪ガスネットワーク株式会社 エネルギー・文化研究所
かつて大阪ガスが運営していた文化複合施設「扇町ミュージアムスクエア」界隈でのサロン活動「扇町Talkin’About(トーキン・アバウト)」において700回以上の対話の場をつくり、日替わりマスター制によるカフェ空間の場づくりなども実践。さまざまなアプローチで地域の魅力づくりに長年関わる。


目次
奥河と山納さんのトークセッションのなかで「これからの地域やまちづくりに必要なもの」という問いに対して、山納さんから出たキーワードが「文化」でした。行政の文化、企業の文化、市民の文化があります。それぞれの中だけで変わろうとするのではなく、異なる文化を持つ人たちが交わり、お互いの「普通の違い」を知り、少しずつ混ざっていくことが重要なのではないか、と山納さんは指摘します。
浜甲子園でUR都市機構、HITOTOWA、住民団体が一緒に企画・運営した社会実験「よろかパーク」は、この「異なる文化が少しずつ混ざっていく」を体現したプロジェクトでした。「発注する側/受託する側/参加する側」という関係ではなく、一緒に考え、一緒に汗をかくことで、立場を越えた対話や関係性の変化が生まれていました。
山納:住民側も行政や企業からサービスを提供されるだけで、何か不満があると文句を言うだけの「お客様(消費者)」の関係では、地域は持続しません。大切なのは、お互いの「ちょっとした得意なことや好きなこと」を少しずつ持ち寄って、その地域にあるもので何とか楽しくやっていく(=持ち寄る文化が育つ)ことではないでしょうか。

山納さんの視座を受けて、奥河は、地域に関心がある人だけでなく、これまであまり関わってこなかった人も含め、関わるきっかけや選択肢をどうつくるかという、HITOTOWAが実践の中で大切にしてきたことの視点で話しました。
山納:HITOTOWAの実践や書籍『ネイバーフッドデザイン』について「現場の人が書いている」「現場的解像度があるな」と感じました。「居場所やつながりが必要」という理念だけではなく、初めて来た人とどう会話するのか、その人が安心していられるためにどのような設えやもてなしが必要なのか、さらには地域の関係者への挨拶や調整など、おもてからは見えない積み重ねを実践されていますね。
奥河:企画そのものだけではなく、「コミュニケーションの取り方」「場の持ち方」「雰囲気」「声のかけ方」といった細部を大切にしてきました。このあたりの積み重ねがノウハウになってきています。

地域のつながりというと、全員が一丸となる「ワンチーム」の伝統的な自治会を思い浮かべがちですが、これだけ多様な人が暮らす現代では、全員が同じ組織に入るのは少し窮屈に感じます。そこで、奥河から「複数の選択肢づくり」という視点について、投げかけました。
奥河:これからは、古くから地域を支えてきた自治会をリスペクトしつつ、そこに入りづらい人たちのために「きっちりした組織はいらないけれど、ちょっと相談できる人が欲しい」「たまに緩く関わりたい」といった関わりのグラデーションや選択肢を地域の中に複数つくっておくことが、結果的に孤独や孤立を防ぐ一番のセーフティネットになるのではと考えています。
そのためにも、HITOTOWAが関わるプロジェクトでは、最初から手法を決めるのではなく、「地域の現在地を理解する」ことから始め、自分たちが担うべき役割を見極めることを大切にしていると、続けた奥河。
奥河:我々が大事にしたのは、地域住民との1対1の対話による関係性づくり。そのなかで企画が生まれ、地域課題の改善・解決につながり、それを継続的に支える組織と財源確保の仕組みができるプロセスを丁寧に進めてきました。まちのね浜甲子園のプロジェクトでは、運営していた組織を4年前に地域住民の皆さまに引き継いで、現在も活動が展開されています。むしろ我々がいた時よりも進化していて、年間予算 1,600 万円程度の事業規模で運営できる仕組みになっています。
ちょうど先日、「一般社団法人まちのね浜甲子園」は、国土交通省の「第5回まちづくりアワード功労部門」を受賞しました。本イベントでも、代表理事の井川舞さんをはじめ、立ち上げ時から一緒に汗をかいていただいた事業者の皆さまにもご来場いただいたので、共に、浜甲子園に残せた地域の営みを喜び合いたいなと思っているところです。

このような姿勢は、山納さんの話題提供で紹介された、文化的な交流から市民社会の形成へつながる、ハーバーマスの「討議民主主義」や、家でも職場でもない場所が地域の拠点として機能する、オールデンバーグの「サードプレイス」の概念にも通じます。
さまざまな趣味嗜好や興味関心を発端した文化的な交流の機会や居場所の選択肢があり、関わりの余白が多くあるなかで得た隣人同士の関係性が、やがて地域の自治やコミュニティの課題への主体的参加へとつながります。
▶ユルゲン・ハーバーマスが提唱した「討議民主主義」とは
「行政サービスの受益者・消費者の集まり」へと受動化した歴史(現代市民)への問題意識を抱き、単なる多数決や利益誘導の政治ではなく、市民同士の自由で対等な「話し合い(討議)」を通じて互いの理解を深め、社会の合意や正統性を形成していく民主主義のあり方を指す。
▶レイ・オールデンバーグが提唱した「サードプレイス」とは
家庭(第1の場所)でも職場・学校(第2の場所)でもない、「個々人が定期的かつ自発的に集まる、インフォーマルで気楽な公共の場所」を指し、見知らぬ者どうしの気楽で面白い混交を創り出し、情報や意見を交換し、地域の活動拠点としても機能する「場」の有効性について唱えた。

山納:まちづくりの最大の難関は、予算期間や開発の初期サポートが終わった後の「手離れ(自立)」ではないですか?
山納さんだけでなく、来場者からも問われた「手離れ(自立・自走)」について、HITOTOWAのプロジェクト推進におけるポイントを引き出しに、奥河の考えを語りました。
奥河:地域で取組を立ち上げること以上に難しいのが、そこから離れていくこと。そのために、HITOTOWAがいなくなることを共有しながら、「何を残したいのか」「残せる仕組みになっているのか」を地域の方々と対話するプロセスを大切にしています。
お金の管理や専門的な手続きをボランティアだけで背負い続けるのが難しく、結局破綻するケースもあります。まちのね浜甲子園では、負担が大きい会計や税務業務などは有償で外部の会計事務所に依頼し、住民は「無理なく楽しめる活動」に専念できる仕組みを設計しました。

つまり、イベントや組織の「形」をただ存続させることではなく、住民が「これだけは地域に残したい」と思える意思と、無理なく続けられる仕組みを残すことが大切で、そのためにも、自立・自走という言葉そのものの解像度を上げる必要がある、と。
奥河:組織やイベントがそのまま続くことを成功とは考えていません。「同じものを残す」のではなく、大切にしたいものを引き継ぎ、次の担い手が自分たちなりに変えていける状態をつくることこそが大事だと思うのです。自立や自走って、よく使われる言葉なんですが、もうちょっと解像度を高く言語化して、現実的に目指せるものなのかを関係者で共通理解をつくることが必要だと思います。関わる人のマインドや組織・収支の構造、ハード的環境など、「なんとなく」になっていることの解像度を上げながら、目指していることを関係者で握っていくプロセスが重要だと感じます。
山納:行政、企業、市民・NPOなど、それぞれにできることと難しさがありますよね。どの主体に任せるかという役割分担の話ではなく、「どういう塩梅にすると、この地域が良くなるのか」という難しさとHITOTOWAさんは向き合っているのではないでしょうか。
奥河:「何が正解なのか」は最初から分からない中で、目指す方向を関係者と共有しながら、現場の状況をインプットし続け、必要に応じてやり方を変えています。目標を見失わないことと、手法を柔軟に変え続けることを両立する姿勢を大切にして取り組んでいます。
決して、スマートに対処しているわけではなく、本当に、日々悩み続けていますよ。ここにいるみなさんもそうですよね(笑)

山納:私から話題提供したオールデンバーグにしてもパットナムにしても、社会に対して描く理想からの距離感に悲観して嘆いているんです。つながりが失われていると。
でもそうじゃないかもしれない。私たちは関係性をつくったり、文化を書き換えていくということができるかもしれないと実践を通じて感じています。

奥河:私たちは、思いを持って依頼してくれた方の期待に応えつつ、これまでより地域として社会として良い方向に向かっているのかということを、強く意識しています。一緒にプロジェクトを進めながら、そういうマインドの方を増やして、思い広げていきたいと思っています。

最後の、2人の言葉からは、理想的なコミュニティ像を追い求めるだけではなく、目の前の小さな関係性から、地域の文化を少しずつ変えていける可能性が見えてきました。
イベント名に掲げた「BE NEIGHBOR(ご近所との関係性は、いまここにある)」のように、目の前の小さな対話から、私たちはいつでもまちの文化を紡いでいける存在であること、その関係性があることを確認し、15周年の節目に、これまでの実践をふりかえりながら、これからのネイバーフッドデザインをともに考える時間となりました。

(取材・構成 HOTOTOWA&東善仁(合同会社ユブネ)/撮影:中谷 紀美子)
HITOTOWAの声
ネイバーフッドデザインが形づくる「市民的公共性」とは。~正解がない地域で、よりよい関係性と文化をどうつくるか~【15周年イベントin神戸 「BE NEIGHBOR」レポート後編】
会いたい人がいる“関西”を未来へ。ご近所の関係性がもたらす、ポジティブな変化とその軌跡【15周年イベントin神戸 「BE NEIGHBOR」レポート前編】
ハード整備×ソフト施策の両面で、“ゆるやかなつながり”をどうデザインする?─「ヌーヴェル赤羽台」HintmationにおけるURグループの挑戦【座談会・後編】
団地の機能は「住む」から「暮らす」へ。団地を楽しむ“コミュニティ”、どうつくる?─「ヌーヴェル赤羽台」HintmationにおけるURグループの挑戦【座談会・前編】